ミニバンの便利さには他の車型で代えがたいものがある。日本ではそれをわかっているひとが多いのだろう。まさにミニバン天国。大衆的なものから、高価格なものまで、ひととおり揃っている。しかし“ちょっといいもの”となると話は別で、数は限られてくる。

「フォルクスワーゲン・シャラン」は、ドイツ製の7人乗りミニバンだ。特徴をひとことでいうと、クオリティ感である。そこに燃費にすぐれるディーゼルエンジン搭載モデルが加わった。

2019年8月20日に日本で発売された「シャラン TDI Highline(ハイライン)」は、1968cc4気筒ターボディーゼルエンジン搭載モデルである。130kW(177ps)の最高出力と380Nmの最大トルクを発生するパワーユニットを、全長4855ミリの車体に搭載する。

両側に電動スライドドアがつき後席にアクセスしやすい

ミニバンは子どもがいるひとに最適の乗り物であるが、たとえば4人でゴルフなどというときも、室内の広さは快適だ。シャランは2列めに3つの独立したシートを備えており、中央のシートをたたんでしまえば、広々感がさらに拡張する。

「TDI」は、意外なほど力強い。走りだしての第一印象は、低回転域でのゆたかなトルクを感じるところにある。アクセルペダルを軽く踏むだけでスムーズに発進し、さらに加速感もしっかりある。

1500rpmあたりでたっぷりと力が出るのはディーゼルエンジンの特長で、シャランのようなミニバンによく合っている。燃費は、メーカー発表値で、リッターあたり14.0キロ(実際の使用状況に近い計測方法のWLTCモードによる)なので、けっして悪くない。

ステアリングホイールを操作する際の操舵感覚は、期待以上に重厚で、運転する楽しさにもなっている。かりに家族のためにこのクルマを手に入れたときも、運転手にはそれなりの楽しみが用意されているのだ。

2列めシートは3席が独立してスライド可能
3列めシートはおとなでも座っていられる

特筆すべきは作りのクオリティだ。すべての部分がかちっと作られていて、操作感にもすぐれる。たとえば3列めのシート(大人も座っていられる)にアクセスする際に、2列めのシートの背もたれを倒す必要があるが、操作しやすいのに感心するのだ。

座面がまず持ち上がって、背もたれが前に倒れるためのスペースを作り、といったリンケージのメカニズムにも感心しきりである。まったく手を抜いていない、という品質感が最大の魅力といえるだろう。

後席用のスライドドアは左右に備わっていて、電動で開閉する。スタイルには、いわゆる“けれん味”は薄く、そう華やかではないし、クロームパーツがフロントグリルを飾りたてていないので、押し出し感にも欠けると思われるかもしれない。

アダプティブクルーズコントロール、レーンキープアシストシステム、リアビューカメラ、後方死角検知機能など標準装備

もちろん、明るい色のダッシュボードや、少々派手にみえるシート地などがあってもいいと思うが、機能的に不満はおぼえないはずだ。派手ではないものの、ドイツ製の工業製品の良質の部分がちゃんとあると納得できるモデルなのだ。

価格は529万6000円(10パーセントの消費税込み)で、1.4リッターガソリンエンジン搭載の「シャラン TFI Highline(479万円)」より約50万円高となる。

日本のラインナップでは、ガソリンエンジン車よりはるかに力強いのが特徴だ。ガソリン車のWLTC燃費は発表されていないので、はっきりしたことはわからないが、車重を考えると1.4リッターではどうしても回転を上げて走ることになるので、ディーゼルに分がありそうである。

低い回転域で大きなトルクが出るディーゼルの恩恵として、高速でも比較的しずかだし、中間加速もよく、扱いやすいという点において、存在意義が感じられるモデルだ。

小川 フミオ/Fumio Ogawa
慶應義塾大学文学部卒。複数の自動車誌やグルメ誌の編集長を歴任。そのあとフリーランスとして、クルマ、グルメ、デザイン、ホテルなどライフスタイル全般を手がける。寄稿媒体は週刊誌や月刊誌などの雑誌と新聞社やライフスタイル誌のウェブサイト中心。

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