――スーツはお好きな色柄はありますか。
色はたいてい紺かグレーと決めています。あとは、去年、紺のスーツを買ったから今年はグレーにしようといった具合です。靴とベルトはスーツの色に会う黒で統一しています。たまに百貨店の紳士服売場の方から、「今年はチェック柄です」と流行を教えてもらって、あまり派手にならないような一着を購入することもあります。
――スーツの上着はツキが出ないように気を付けていらっしゃいますね。オーダーで作られないのですか。
2度ほどオーダーで試したことがあります。でもツキは取り切れず、無理をすれば今度はラインが汚くなります。それで今はパターンオーダーで可能な限りツキを取ってもらっているのです。
――ファッションに関しては昔から関心があったのですか。
流行りのものに飛びつくというタイプではないですが、好きですね。本当はアパレル関係の会社に就職したいと思っていたんです。それで高校生の頃から『an・an』などを読んでトレンドを研究していました。ところが私が就職したころは繊維不況で希望はかないませんでした。京王電鉄から京王百貨店に異動したときは、もう売場に立つ年齢ではなく、「いつか婦人服を売ってみたい」という夢は夢で終わってしまいました(笑)。
――ホテルは制服が雰囲気を作り出す大事な役割を果たします。制服を決めるときはトップの意向も入っているのですか。
制服は現場の人が選んでいます。自分が着ないのに私が決めるのはおこがましい。現場の人がプライドを持って着ることができ、かつ機能性があるユニフォームになっていると思います。ただしホテルの空間とのマッチングも大事です。従業員の制服もまたインテリアの一部なのです。3年前に一新した宿泊部門の制服はかつてのビビッドなものからシックで上質感のあるものに変わりました。これはホテルの内装が華やかな時代からシンプル&モダンの時代に移ってきたことに合わせたのです。
――ホテルではカジュアルな恰好よりもきちんとスーツを着ていたほうが好まれると聞いたことがありますが、実際はどうでしょうか。
私どものホテルは様々なお客様にご利用いただいているので、服装でサービスが変わることはありません。ホテルでの服装は堅苦しく考えず、楽しんでいただければいいと思います。たとえば、「今日のディナーは正装してみよう」と遊び心で着飾ってもらえば特別感もあることでしょう。
私個人の経験では、かつてロンドンに駐在した夏のこと、ブラウンズホテルのアフタヌーンティーでジャケット着用を言われたことがあります。ところがその日は暑い日でした。冷房が効いていなかったので、つい上着を脱いだら、ウェーターがすっと近づいてきて、「ジャケットを着てくれ」と。
――前編で紹介していただいたグッチのセーターのほかにも愛用品はありますか。
ひとつが「m0851」の皮のバッグです。少し風格があり軽いバックを探していて見つけたのがコレです。肩に掛けられるタイプからポーチまで3種類持っています。一番大きなものは2泊3日の出張でも十分荷物が入る容量があります。買ってから8年たちます。使ううちにどんどんクニャクニャニなりました。手入れは簡単で、年1回ちょっとオイルを馴染ませるくらいです。
もうひとつがセイコーの腕時計です。私が慶應連合三田会の記念品部会長だったとき300個限定で作りました。取り立てて目を引く時計ではありませんが、リューズが学校のシンボルのペンマークになっていたり、文字盤に透かしで創立記念日と慶應のワッペン、ペンのマークが入っていたりと見えないところに工夫しました。だいぶ予算をオーバーして仲間からは怒られましたけどね(笑)
山本 護/Mamoru Mamoru
京王プラザホテル代表取締役社長。1979年慶應義塾大学経済学部卒。京王帝都電鉄(現・京王電鉄)入社。系列の桜ヶ丘カントリークラブ支配人、京王百貨店顧客政策部長、京王電鉄常務取締役・総合企画本部長などを務め、2016年より現職。
text:Top Communication
photograph:Takao Ota
make & hair:RINO