湘南の渚をモチーフにした記念時計

――グランドセイコー以外に、ビジネスシーンにあわせて時計を使い分けることはあるのでしょうか。

海外出張のときには「セイコー アストロン」をすることが多いです。GPS機能がついていて、ボタン一つで時差修正が簡単にできるので、世界中どこへ行くのにも便利です。カジュアルな集まりや海に出かけるようなときはダイバー用時計の「セイコー プロスペックス」をすることが多いですね。セイコーのダイバーズウオッチには50年以上の歴史があります。

――プライベートでは、どういう時計をされるのですか。

気に入っているのが、2013年に当社の腕時計製造開始100周年を記念してつくった100周年記念SH(SHINJI HATTORI)スペシャルモデルです。感謝(サンキュー)の意を込めるという意味あいもあり、39本限定としました。

白いバンドや青の文字盤が特徴的で、私の大好きな湘南の渚をモチーフにした遊び心満載の時計です。シースルー仕様の裏ぶたから見えるメカニカルムーブメントには彫金師がヨットやカモメ、江ノ島、サメやマンボウなどを彫り込んでいます。バンドには、かつてクラシックホテルとして有名だった「逗子なぎさホテル」のネーミングも入っているんです。カジュアルシーンの中でも気の置けない仲間と出かけるときの定番です(詳細は「愛用の逸品」欄で紹介)。

日本の美意識を機械式に反映させたい

――グランドセイコーは最近、若い人も買うようになったとのことで、一方女性市場も有望ですね。働く女性が増えて購買力が高まっていますし、ビジネスシーンに似合うお洒落な腕時計が求められています。

グランドセイコーもレディースモデルを強化し、天海祐希さんを広告に起用し、女性にとってもラグジュアリーなブランドとしての確立を進めています。

最近、世界的に機械式時計の人気が復活しています。女性も洋服と同じ自己表現の一つとしてメカニカルのタイプを選ぶ人が増えているように思います。今春グランドセイコーでも50年ぶりに女性用メカニカルムーブメントを開発し、世界限定50本で発売しましたが、330万円と高額にもかかわらず完売しました。

グランドセイコーのレディースモデルの販売に手ごたえを感じています。

――高級時計市場向けにグランドセイコーのブランドを独立させたほかに、どういう取り組みを進めているのでしょうか。

セイコーは正確、精密、高品質な時計をつくる日本のブランドとして評価されていますが、特にグランドセイコーは匠による日本らしい繊細でていねいなものづくりの思想で丹念に手づくりされていることが大きな特徴です。デザインや細部へのつくりこみは日本の美意識を反映したものです。機械式の時代に培った“ヘリテージ”もまたセイコーの強みです。それを今後、大いに活かしていきたいと思っています。

「TEAM SEIKOスーツ」姿で。このスーツにはアスリートと一般社員とが一体感を持つように、との狙いがある。銀座・和光時計塔にて

「TEAM SEIKOスーツ」の狙いとは

――セイコーはスポーツとの長い関わりがありますね。2020年には2回目の東京オリンピックを迎えます。

当社の時計は1964年の東京オリンピックで初めて公式計時として採用され、世界にセイコーのブランドが広がりました。当時はもっぱら正確さが重視されていました。当社も精密さ、正確さを追求し、世界初のクオーツ式腕時計やGPSソーラーウオッチを開発してきました。

――現在、アスリートを社員として採用しています。アスリート社員が記者会見などに着ているのが「TEAM SEIKOスーツ」だとうかがいました。その狙いや特徴を教えてください。

TEAM SEIKOのアスリートとほかの社員との一体感を出したかったのです。スーツの色はセイコーのブランドカラーの青で、ネクタイやポケットチーフはセイコーのタイマーを彷彿させる黄色や黒を使っています。一見ブレザーにも見える遊び心のあるメタルボタンを使いました。TEAM SEIKOスーツは、スポーツブランディング部の部員もレセプションなどで着用し、連帯感を高めています。スポーツのフォーマルシーンにふさわしく和光で仕立てたオーダースーツですから一人ひとりの体型に合っていて着やすいと思いますよ。

愛用の逸品~湘南の渚をモチーフにした遊び心満載の時計

服部さんが大好きな湘南の渚をモチーフにした2013年のセイコー腕時計100周年記念SH(SHNJI HATTORI)スペシャルモデル。裏面には「現代の名工」によってカモメやヨット、湘南の海から望む江の島や灯台などが彫り込まれている。バンドは白のクロコダイルを採用し、バンドの裏側は、渚に関連する SHONAN / BEACH / ISLAND /SUNSET などのキーワードがプリントされている。

服部真二/Shinji Hattori
セイコーホールディングスCEO
慶應義塾大学卒業後三菱商事を経て、1984年精工舎に入社。2003年セイコーウオッチ代表取締役社長、17年代表取締役会長兼CEO。10年セイコーホールディングス代表取締役社長、12年代表取締役会長兼グループCEOに就任。

text:Top Communication
photograph:Sadato Ishiduka