──高校、大学時代を米国で過ごし、キリンビール入社後はオーストラリアに長期赴任するなど、海外生活が長かったそうですね。海外での経験はご自身の装いに影響を及ぼしましたか。

私は、もともとスタンダードなスタイルが好みで、外見を飾り立てるようなことはしたくないほうでした。しかし、オーストラリア赴任含み過去10年のビジネスをとおして、ファッションはTPOに合わせて選ぶ必要があるということ、そうした配慮は周囲の人とコミュニケーションをとるうえで大切であることを経験してきました。特に輸入酒のビジネスに関わるようになってからは、出張で海外を訪れるたびに現地のビジネスパーソンの洗練された装いに刺激を受けたものです。

──前編では、装いがブランド・マーケティングにとって重要であると語っていただきました。装いについて社員にアドバイスをすることもあるのですか。

とんでもない(笑)。キリン・ディアジオの社員は男女ともおしゃれな人がいて、むしろ私が刺激をもらっています。例えば細身のジャケットにスキニーパンツというスタイルで、普段から胸ポケットにチーフを挿している、まるで欧州のビジネスパーソンのような社員もいます。身内を自慢するのもおかしいのですが、本当に格好いいんです。お客さまを特別な体験に導くのが私たちの仕事ですから、初めて会った人に鮮やかな印象を刻み込む彼らの装いは、洋酒ブランドのプレゼンスを高めるための理想的な姿ではないかと思います。

──社員とのコミュニケーションで大切にしていることはありますか。

「言いたいことを、どんどん言ってほしい」と、伝えています。躊躇する人もいますが、「大きな会社ではないのだから、距離はもっと近くてもいいのでは」と言って、こちらから距離を縮めるように心掛けています。

──社長からは、どんなメッセージを発信していますか。

中期戦略のありたい姿を目指して、「まずやってみよう」──これだけです。私は出羽国米沢藩主、上杉鷹山公の「為せば成る 為さねば成らぬ何事も 成らぬは人の為さぬなりけり」という言葉が気に入っていて、自分のモットーにしています。鷹山公は、「何事も行動を起こさなければ始まらない。行動を起こして強い意志で進めれば目標を達成できる」と言っていますが、まさにその通りです。とにかく実行すればいい。たとえ失敗しても、その思いを他の誰かが汲んで次につないでもらえることもあります。ですから、社員が自ら発案してやろうとしていることは、基本的に尊重するようにしています。

──個人面談で社員一人ひとりの健康にまで気づかうそうですね。

経営資源は「ヒト・モノ・カネ・情報」と言われますが、会社は何よりも「ヒト」が最優先の重要資源です。その一つに社員が体を壊してしまっては、質をあげて充実した内容で働くことができません。そんな状況に陥らないためにも、面談時や機会がある時は本人が元気であっても健康状態について尋ねるように「あなたを見ている」「あなたが健康を保ち、活躍してくれることを望んでいる」と伝えるよう心掛けています。

米国留学時代にカメラにのめり込んだ西海枝社長自らが撮った写真

──ウイスキー人気を背景に、ディアジオの世界的ブランドであるジョニー・ウォーカー ブラックラベルやホワイトホースへの注目度が高まっています。

おっしゃるように、現在、日本の酒類市場で最も熱いのがウイスキーのカテゴリーです。私たちは、ディアジオが誇るジョニー・ウォーカー、ホワイトホースの2ブランドを日本市場に浸透させようと、積極的なマーケティングを展開してきました。その結果、両ブランドとも幅広い年代の厚い支持を得て、市場でのプレゼンスは大きく高まりました。特にホワイトホースは、スコッチウイスキーの国内販売量NO.1となりました。

──スコッチウイスキーには奥深い魅力があります。おいしい飲み方を、ぜひ教えてください。

基本は「1:3」です。普通サイズのタンブラーに氷をたっぷり入れて、30~40mlほどスコッチを注ぎ、その3倍の水やソーダを加えてバースプーンでステアしてください。それぞれのスコッチが持っている本来の味わいを生かしながら、爽快な一杯を楽しめます。もちろん酒類によっては好みでロックスタイルもおすすめですよ。私は、オレンジのピールや輪切りをひと切れ入れたジョニーウォーカーブラックのハイボールが気に入っています。オレンジのさわやかな香りと酸味が加わることで、いつものジョニーウォーカーブラックとはひと味違う、新しい体験ができます。

──キリン・ディアジオは、バーテンダーコンペティション「ワールドクラス日本大会」を開催しています。日本のバー文化は、今、どんな状況にあるのでしょうか。

日本のバーは世界的に見てもとても高い水準にあり、世界のバーのトップ100には日本のバーもランクインする等、有名なバーへの訪問を楽しみに日本にやってくる外国人観光客が多数いるほどです。バーの楽しみは、今後もっと拡大するのではないでしょうか。みなさんもバーに出かけてみてください。プロのバーテンダーとの会話を楽しみながら、ディアジオのウイスキーやスピリッツのブランド体験をしていただければ、なお嬉しいですね。

──最後に、一番の趣味であるという写真撮影の魅力について教えてください。

人間の目では捉えることができない絵をつくり出せることです。スナップでも風景写真でも、何を一番見せたいか、どんなストーリーを伝えたいかを考えながら構図づくりをして撮影しています。そうやって、納得の一枚が生まれたときは最高ですね。

西海枝 毅/Tsuyoshi Saikachi
キリン・ディアジオ株式会社代表取締役社長
1969年生まれ。高校・大学時代を米国で過ごし、93年にキリンビール入社。2002年から洋酒事業部でウイスキーやスピリッツのマーケティングに携わる。17年4月にキリン・ディアジオ株式会社代表取締役社長に就任。

text:Top Communication
photo:Tadashi Aizawa
hair & make:RINO
location:IRISH PUB Peter Cole(ogikubo)