社内はラフ、社外はスキなく

私は一休に来る前は銀行やコンサルティング会社で働いてきました。当然、ビジネスファッションのスタンダードは違います。銀行員時代は紺系のスーツにホワイトシャツ、レジメンタルタイが基本です。ほんの少し色の入ったワイシャツを着て行こうものなら、上司に呼び出されて、「そのシャツ、白じゃないよね」とお小言を頂戴する世界でした。

コンサルタントだったときは、上質なものを身に着けるよう上司から指導されていましたが、自分の身だしなみに細心の注意を払えるような状況ではありませんでした。徹夜でクライアントに出す提案書を作り、スーツのままオフィスで仮眠をとって翌朝、クライアントのところへ飛び出していくような日々です。スーツは上質のものでしたが、自分の姿を顧みる余裕はなかったですね。

一休はネット企業で自由な雰囲気があり、私もオフィスではTシャツにジーンズ姿です。新入社員が「この人が社長?」と驚くほどです。けれど取引先である一流のホテルや旅館に出かけるときは相応のファッションを心がけています。ホテルの支配人や旅館の経営者はスキのない格好ですから、こちらもビシッとしたスーツで行かないと。実際に、きちんとした服装で高級ホテルや旅館に行くほうが、場に馴染んでかえってリラックスできるはずです。

スーツは、ボリオリなどイタリアのものが多い。靴はジェイ・エム・ウエストンなど、数ブランドのものを長く使うのがスタイル

直接の意見をサービスの参考に

一流のホテルや旅館、レストランがお得意様である一方、私たちには売り側のお得意様が存在します。後者のお客様に対してより多くの心に贅沢な時間を過ごしていただくために私たちは何をすべきか、というテーマに注力しています。ただしネットを介してのビジネスですから、実際にお客様にお会いできるわけではなく、私たちの立てた仮説でサービスを考えるしかありません。

そこで一休をよくお使いいただいているお客様から直接ご意見をうかがう試みを始めました。中には富裕層の方もいらっしゃいます。やはり仮説では辿りつかない真実があるものです。たとえば旅館で日本酒を1杯サービスされて、富裕層が果たして喜ぶのかは、わからなかったりします。ところが実際に聞くと「嬉しいに決まっているじゃないの」と言われました。数字ではなく、ユーザーファースト。お客様の姿を見極める大切さを日々、学んでいます。

愛用の逸品~ペーパークラフトアーティストに依頼した名刺

ペーパークラフトアーティストの小林久実さん(kirifuda)に作ってもらった名刺です。数パターンあり、どれも緻密な細工です。以前、お会いした方が持っていて、すごく素敵だなと思い、小林さんを紹介してもらいました。この名刺を出すと相手も非常に感心し、最高のアイスブレークになります。でも、名刺の話が長くなり、なかなかビジネスの話に入らないこともあるんです。

榊 淳/Jun Sakaki
一休代表取締役社長
1972年、熊本県生まれ。96年慶應義塾大学大学院理工学研究科修了後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。2001年スタンフォード大学大学院で修士課程に進学。03年ボストン コンサルティング グループに入社。その後コンサルタントを経て、13年一休入社。16年から現職。

text:Top Communication
photo:Tadashi Aizawa
hair & make:RINO