若いころから大きな商売

服装に関しては課長になるまで無頓着でした。「また背中からワイシャツがはみ出しているぞ」と同僚から笑われるくらい。スーツも百貨店のバーゲンでしか買っていませんでした。入社以来ほぼ教育市場一筋で、ファッションを問われる場面に遭遇しなかったことも理由の一つだったかもしれません。

教育市場の仕事は本当に面白かったですね。黎明期の教育用コンピュータを学校に導入していくこととICTが広がる動きと自分のキャリアが重なって、若いころから大きな仕事ができました。商談の相手は小中高だと教育委員会、大学だと理系の教授です。パソコン単体ではなくネットワークに繋がるので従来の教育市場ではありえない金額でした。

コンピュータが出始めたころは自分で何でもやりました。コンピュータの納品後、SEでもないのに自分でセットアップを行い、研修の講師まで。教育でトップカンパニーとなった今は、SEや講師は分業していますから、若い人たちは私のような体験はできません。せめてと思い、若手には手作業で配線をさせ、PCでプログラムを組ませてネットワークのイメージをつかめる作業を経験させています。

部下を持つようになってから、服装で足を引っ張ってはいけないと、身だしなみに注意を払うようになったという。専務になってからはオーダーでスーツを誂えている

勝負時はダブルカフスで

教育システム事業部の事業部長になったとき、はっきりと服装を気にするようになりました。部を率いる者として学校や自治体トップに挨拶に行きますから、服装で部下の足を引っ張るわけにはいきません。

常務に昇格した際、社外の大先輩から「その地位に就いたらスーツは作りなさい」と言われました。スーツを仕立てるのは資産家だけだと思い込んでいたのですが(笑)。社長就任のときは時計とそれに合わせたカフリンクスを買い揃えました。今は勝負のときは必ずダブルカフスのシャツで臨みます。

当社は売上比率でいえば企業や官公庁、教育機関で必要とされるネットワークやシステム構築などのICT事業が6割、オフィスや学校空間などの環境構築関連が4割です。また民間部門と公共部門で分ければ6対4。ゼネコンを除きこれほど公共部門比率が高く、またICT企業でこれだけ環境構築を手掛けている企業は稀です。ユニークなリソースをどう使い尽くすか。これが私の今のミッションです。

愛用の逸品~社長にふさわしい時計とカフリンクス

時計はスイスの「ブランパン」と「ジャガー・ルクルト」、カフリンクスはイタリアの「ルカ・カラーティ」です。金の時計には金の、銀の時計のときは銀のカフリンクスを合わせます。社長になったとき、家族から「さすがに今までの古びた時計はまずいでしょう」と言われ、売り場に連れて行かれました。「これが似合う。こっちのほうがいい」と店員と家族の多数決。私には選択権なしです(笑)

大久保 昇/Noboru Okubo
内田洋行代表取締役社長
1954年、大阪府生まれ。京都大学工学部卒。79年内田洋行入社。以来、一貫して教育機関向け市場を開拓し、ICT分野の牽引役に。教育総合研究所を設立し、所長を兼務。取締役専務執行役員を経て、2014年7月から現職。

text:Akifumi Oshita
photograph:Tadashi Aizawa
hair & make:Nagisa Koda(Goldship)