飴細工とは、熱した飴を自由自在に変形させて着色し、動物や植物などの造形をすること。日本には1200年ほど前に中国から伝わり、砂糖が手に入りやすくなった江戸時代に大衆化したそうです。

飴細工師の仕事は時間との戦いです。

たとえば仕込み。手始めに大量の飴をつくりますが、作業そのものは単純。大きな寸胴に砂糖と水飴を入れて火にかけるだけ。ただ、季節によって火加減や煮つめる時間を変えています。火を落とすタイミングひとつで透明度が変わる。細工前の飴を大量に仕上げるだけでも経験が必要です。

夏になると、塗装が難しくなります。もたもたしていると飴が湿気を吸ってしまい、べたついてしまうからです。きれいに仕上げるために、何よりもスピードが求められる作業です。

まだ熟練していない飴細工職人が最も時間に追われる作業。それは造形の工程です。飴は温度が高いほど加工性が良く、冷えてくるほど固まる性質。つまり、温度が下がりきってしまう前に、思い描いた形に完成させなければなりません。再加熱すると飴がにごり、ゆがみも生じてしまうので、いつも一発勝負でつくります。

保温機から取り出した90度の飴が、固くなるまでの時間はたったの5分。しかも、薄く細く加工した場所は、熱が逃げてどんどん固くなります。手順をしっかりと体にしみ込ませて無駄な動きをなくさなければ、この5分間で完成させることはできません。

ものづくりの職は数あれども、飴細工師にしかない作業の進め方があります。それは、細部から仕上げていくということ。

たとえば金魚の造形。ゴルフボール大の熱い飴玉を指でつまんで尾びれとなる部分を成形したら、はさみの刃で切らないように注意しながらひだを入れて尾びれを完成させます。迷っている時間はありません。ひれは薄いので、すぐに冷えて固くなるのです。同様に、背びれ、胸びれと作業を進めますが、胴体や顔は後回し。太いまま残せる場所は熱が逃げにくいので最後に調整します。

彫刻や絵画と比較すると、飴細工の工程が通常のものづくりとは真逆とよくわかります。金魚を作品にするとしても、全体像をつくらないうちから尾びれだけを完成させることはないはずですから。

いまでこそ、私はこの短い造形の時間を苦にしませんが、最初のころは完成までたどり着けないこともあり、まるで飴に尻を叩かれている心境でした。「この温度なのに、まだ半分もできていない。間に合わない」と、いつもプレッシャーにさらされていたのです。

それでも毎日のようにつくり続けたことで、少しずつ腕が上達してきました。そして、何年かたったある日、5分間を短いとは考えていない自分に気付いたのです。頭を使うよりも先に指が動いていく。体に動作がしみ込むとは、こういうことかと納得できました。

その段階までくると、持ち時間を自在に制御できるようになります。たとえば、「飼っている犬をつくってほしい」と一点物を依頼されたとき。5分間で何をすべきかが、すぐに脳裏に思い浮かぶ。あとは、ただ指を動かすだけです。

職人にとって時間とは、自在にコントロールできて当たり前のもの。そこをクリアして初めて、もっとこうしたい、こんなものをつくってみたいという、未知の世界が見えてくる。さらなる高みへと勝負する道が拓けるのです。

手塚 新理(てづか・しんり)
飴細工師。「浅草 飴細工 アメシン」棟梁。1989年千葉県生まれ。幼いころから造形や彫刻に親しむ。職人の道を志して一度は花火師に弟子入りするが、飴細工と出会いこの道に入った。飴細工アメシンとして全国各地で体験教室や製作実演を行う中、2013年に飴細工の工房店舗「浅草 飴細工アメシン」を東京・浅草に設立。15年には東京スカイツリータウン・ソラマチに2号店をオープン。美しさと愛らしさを兼ね備えた飴づくりで人気を博す。

direction:d・e・w
interview:Hiroshi Urata
Illustration:Hiroki Wakamura