ユニークピースに注力する理由
時計好きの間では、ヴァシュロン・コンスタンタンがユニークピースをつくるブランドであることはつとに知られた話である。ブランド草創期から一点ものの宝飾時計を製造してきた伝統を絶やすことなく、20世紀になってもユニークピースをつくり続けてきた。そしてそれらを一つの柱として確立したのが2006年のこと。顧客の要望に応じて完全オーダーメードの時計をつくる「アトリエ・キャビノティエ」サービスを始動した。
「このサービスを開始してから10年ほど、一点ものに対するニーズが縮小したことは一度もなく、ここ数年は『待っていられない』という顧客がいるほど拡大している。そのため、今後は完全オーダーメードのサービスを継続しながら、もう一つの柱として、われわれ主導でつくったユニークピースを提供していく。年間30モデル程度を予定している」
サービス名を「レ・キャビノティエ」と改称し、完全オーダーメードの時計と、ブランド主導のユニークピースの二つの時計づくりを並行的に行う。自社のオリジンとも言えるユニークピースづくりにもう一度光を当てて今後は積極的にアピールし展開していくというが、いまユニークピースにここまで注力するのにはわけがある。
「『レ・キャビノティエ』は規模的には大きくないが、これがあることの意味は大きい。われわれがどんな歴史を持ち、どんなストーリーがあり、どんなノウハウを持っているか。こうしたブランドの何たるかを理解してもらうのに最もふさわしい時計だからだ。
これまではどちらかというと商品中心の説明だった。それはもちろん大切なことだが、さらにその背景にあるストーリーを伝えていかなければならない。そのために『レ・キャビノティエ』は重要な位置付けとなる。よく“言葉よりも体験のほうが記憶に残る”というが、時計師と顧客が良好な関係をつくり一緒に時計を製作すれば、完成した時計は顧客にとって思い入れの強い格別な一本になる。今後はそうしたエンゲージメントの構築に注力し、顧客とのつながりを強化したい」
エンゲージメントとは、消費者がブランドに積極的に関与することで構築される、両者間の絆のようなもの。ブランドと顧客がより親密につながる場として『レ・キャビノティエ』があり、その時計づくりのプロセスでプロダクトの先にあるストーリーを伝えることによってエンゲージメントを深めるという。