目指すのは、単なる復刻ではない

ヴァシュロン・コンスタンタン、スタイル・アンド・ヘリテージディレクター、クリスチャン・セルモニ氏。

時計愛好家や目利きに向けて、時計そのものの価値のみならずブランドの歴史、遺産、ノウハウを伝える。このフェルラ氏のプランを実行する上でキーマンとなるのが、クリスチャン・セルモニ氏である。ヴァシュロン・コンスタンタン一筋27年、製品開発のトップとして17年。同ブランドの時計づくりを誰よりも知る生き字引である。フェルラ氏のCEO就任から間もなく、役職がアーティスティック・ディレクターからスタイル・アンド・ヘリテージディレクターへと変更された。

「新しい役職での役割は大きく三つあります。まずは、アーカイブを体系化すること。現在、ヘリテージピースが1400ピースほど整理されていますが、それ以外に存在するアイコニックな、ヘリテージ要素が高いモデルをピックアップして整理する。二つ目は、オークションハウスやコレクターからの問い合わせに正しい情報を提供する。そして三つ目は、かつて開発されたムーブメントやケースを把握して、また過去にどんな著名人が着けていたかなどを調査して、時計のストーリー性を高める。製品と歴史の両方の知識をジョイントして、今後の開発につなげていくことです」

これらを通して、ブランドの歴史に名を残すヘリテージピースをもとに、新しい製品を創造するのが責務だという。

「これまでの仕事で具体例を挙げるなら『ヒストリーク・コルヌ・ドゥ・ヴァッシュ 1955』です。この時計のオリジナルは1955年につくられ、カウ・ホーン(牛の角)のような大胆なラグがコレクターの間で話題となった。現行品では、そのラグをそのまま復刻するのではなく、現代のユーザーに好んでもらえるようにアレンジした。ダイヤルも同様に、2カウンターのクラシックスタイルだけど、数字の書体・サイズ、目盛りの入れ方などでやや現代的なスタイルに変えている。

「ヒストリーク・コルヌ・ドゥ・ヴァッシュ 1955」。写真左が2015年に発表された現行品、同右が1955年作のオリジナル。現行モデルはオリジナルのデザインを踏襲しているものの、ラグの形状、ベゼルの幅、ダイヤルの意匠など、つぶさに見ていくと丁寧なディテールワークにより現代的にアレンジされていることがわかる。現行品はコラムホイール式のクロノグラフ、キャリバー1142を搭載。ジュネーブ・シール取得。●(現行モデル)プラチナ。ケース径38.5mm。手巻き。アリゲーター・ストラップ。785万円。

私が注視するのはとにかくディテール。時計の魂、スピリットは必ずディテールにある。一本の時計に詰め込まれたすべてのディテールを研究・分析して、そこからその時計にない、外部の新しいものを取り入れる。単なる復刻ではなく、過去から現代に橋をかけるようなイメージで創作している」

さて、CEOのフェルラ氏にいま一度聞いた。ブランドの歴史にどんな1ページを書き加えたいかと。「これは私の物語ではなくヴァシュロン・コンスタンタンの物語。やるべきことはブランドのヘリテージを次につなげていくことだ」と答える。ヘリテージの豊かさでは群を抜くブランドである。そこにいま一度光を当てたフェルラ氏の戦略とセルモニ氏の腕が成果となって現れるのは、2018年のSIHH(ジュネーブサロン)か、その先か。いまから興味が尽きない。

ルイ・フェルラ
ヴァシュロン・コンスタンタンCEO
ベルギー生まれ。フランス・リヨンのビジネススクールを卒業後、大手小売企業や時計専門商社を経て2001年リシュモン グループに入社。06年からカルティエに在籍し、中東、インドなどのリージョナル・ディレクターや中国のCEOを歴任した後、カルティエ・インターナショナルの要職に就く。16年10月、セールス&マーケティングのマネージング・ディレクターとしてヴァシュロン・コンスタンタンに入社。17年4月より現職。

クリスチャン・セルモニ
ヴァシュロン・コンスタンタン スタイル・アンド・ヘリテージディレクター
1959年、スイス・ジュウ渓谷生まれ。時計職人一家に育つ。90年、ヴァシュロン・コンスタンタン入社。販売や製造などの部署で経験を積み、2001年に製品開発のトップに就任。コンセプトづくりから試作品、製品化まで担当。10年にアーティスティック・ディレクター就任。17年より現職。

text:d・e・w
photograph:Ami Harida