「レディ アーペル プラネタリウム ウォッチ」――ヴァン クリーフ&アーペル VAN CLEEF & ARPELS
もはや天文ツール! ロマンあふれる宇宙時間を楽しむ
天体時計のシリーズ「ポエティック アストロノミー」からの新作が、「レディ アーペル プラネタリウム ウォッチ」。
宇宙空間のようなミッドナイトブルーの文字盤上には、ゴールド製の太陽を中心に水星、金星、地球のモチーフが置かれ、実際の周期と同じくそれぞれ88日、224日、365日で太陽の周りを1周する。地球に寄り添うようにあるのはダイヤモンド製の月で、こちらも実際の周期同様、29.5日かけて地球を1周。ダイヤル外周のロジウムプレートゴールド製の流れ星で12時間式に時分表示を行い、ケース裏面には年月日の表示を備える。
太陽系を時計の盤上に描く発想と、それぞれの天体の周期まで再現する高度なメカニズム。ロマン好きにはたまらない時計である。
トップメーカー、メカニズム開発の方向性
近年のウォッチメーカーを見ていると、いくつかのメカニズム開発の方向性がある。
まずは複雑機構のブラッシュアップだ。複雑機構の開発ブームは数年前に頭打ちになった感があるが、性能・精度・安定性の向上といった既存機構の改良が本格派のマニュファクチュール(自社一貫生産)ブランドを中心に続けられ、こうした開発が現在ではブランドの技術力を測る一つの物差しとなっている。この分野でまず名が挙がるのがA.ランゲ&ゾーネ。今年はスプリットセコンド・クロノグラフ機構のラップタイム計測を、通常は秒単位までのところ、時単位まで計測可能とする機構を発表し、時計関係者の耳目を集めた。
もう一つの方向性が、この10年ほど続くムーブメントの薄型化である。この分野はジュエラーを含めてエレガンスを特徴とするブランドがしのぎを削るが、今年SIHHで本領を見せたのがピアジェだ。2014年に発表した「ピアジェ アルティプラノ」 38mm 900Pは、ムーブメントの裏表を通常とは反対に配置し、さらにその地板がケースの裏蓋も兼ねるという新機軸の手巻きキャリバーだった。今年はこの900Pを自動巻き化した「アルティプラノ」アルティメート・オートマティック 910Pが完成し、ケース厚4.3mmという極薄の自動巻き時計を披露した。
このほか、独創的なメカニズムで自社のアイデンティティーを打ち出すブランドもある。ユリス・ナルダンは自社の先端技術をいち早く投入してきた「フリーク」から初の自動巻きモデルを発表。巻き上げ効率を高める新機構を開発し、ブランドの先進性をアピールした。また、ヴァン クリーフ&アーペルは太陽系の惑星の動きをダイヤル上に再現した天文時計の新メカニズムを発表。新たに月の動きまで再現し、ロマンあふれる時計づくりを印象づけた。
メカニズムの新規開発には膨大な時間と資金を要する。複雑なものになると最低5年はかかるという話も聞くほどだ。となれば、技術力・資金力に乏しいブランドが乗り出さなくなるのは自然な成り行き。10年ほど前は自社製ムーブメントを喧伝するブランドが後を絶たなかったが、現在もメカニズムを新規開発し続けるのは一部のトップブランドに絞られる。複雑機構のブラッシュアップ、薄型化、そしてアイデンティティーの追求と、その方向性は異なるが、こうしたブランドに共通するのは無類の開発精神と徹底的に突き詰めるものづくりの姿勢。時計そのものだけでなく、トップの意地を感じさせるメンタリティーもまたこうした時計を所有する楽しみだ。
text:Hiroaki Mizuya(d・e・w)
photograph:Kazuteru Takahashi