「ジャガー・ルクルト ポラリス・オートマティック」――ジャガー・ルクルト JAEGER-LECOULTRE

「ジャガー・ルクルト ポラリス・オートマティック」ステンレススティールケース。ケース径41mm。自動巻き。カーフ・ストラップ。75万円(税別)。2018年春発売予定<ジャガー・ルクルト>

都会的なダイバーズテイスト、付け替え可能なストラップ

ジャガー・ルクルトは今年、スポーティー・エレガントを標榜する「ジャガー・ルクルト ポラリス」コレクションをローンチした。1968年、同ブランドは海へと潜るダイバーに振動式アラームで潜水時間を知らせる「メモボックス・ポラリス」を製造したが、新コレクションはこのモデルに着想を得てデザインされたもの。

太めの針、大振りなインデックスによるダイバーズウォッチ特有の視認性は確保したまま、ダイヤルにサンレイ、グレイン、オパーリンという3種の仕上げを使い分け、ラグやベゼルをシャープにデザインすることで都会的な印象へとアレンジ。ユーザー自身が付け替え可能な新しいストラップシステムも採用された。

「カレ アッシュ」――エルメス HERMÈS

「カレ アッシュ」ステンレススティールケース。ケースサイズ38×38mm。自動巻き。カーフ・ストラップ。77万5000円。2018年2月からエルメス銀座店で先行発売、全国発売は夏頃の予定<エルメスジャポン>

優雅で自由な遊び心が横溢。時計デザインに新しい風を吹き込む

エルメスが高級時計製造を始めてから今年で40年。その間に培ったノウハウをベースに、ウォッチデザイナーという専門職を設けずに新しい目で独創的なクリエーションを生み出すこと、そして"遊び心のある時"というコンセプトを貫くことがエルメスの時計づくりのDNAだ。

その好例が、スクエア形のケースにラウンドダイヤルを組み合わせた「カレ アッシュ」の新作。丸いダイヤルの中央に直角に線が交わる幾何学的なデザインは、建築家のマルク・ベルティエによるもの。2桁で統一されたインデックスの数字、アイスピッケルをモチーフとした秒針のデザインなどは、探検家をイメージして考案された。計器やコンパスのようなアドベンチャー感がありながらも優雅さもある、スタイルづくりの巧者だからこそ成せるデザインだ。

上品さと軽快さを両立したモデルが充実

近年の潮流の一つ、既存コレクションのモダナイズという点で今年注目を集めたのがカルティエである。本格的メンズウォッチの祖であり、誕生から100年以上にわたりいつの時代も人々に受け入れられてきた「サントス」のマイナーチェンジが行われたからだ。新しいデザインのコンセプトは、1904年に誕生したオリジナルモデルの哲学を忠実に受け継ぐこと。詳細は後述するが、どちらかといえばマスキュリンな印象があった既存デザインが、シャープでスタイリッシュな方向へと生まれ変わった。

また、ブランド創業から20余年を経ていま一度オリジンへの回帰とブランド再構築を進めるパルミジャーニ・フルリエは、2001年初出の「カルパ」の新デザインを発表した。樽形ケース、しずく形ラグという特徴はキープしたまま、ディテールワークの妙でスマートなフォルムへマイナーチェンジした。こうしたカルティエやパルミジャーニの例が示す通り、現代の腕時計デザインはその時計の個性を強く打ち出したものから、程よくすっきりという方向へとシフトしている。そうさせるのは時代感覚か、それとも幅広いユーザーに訴求したいブランド側の意図か。いずれにしても服装を選ばずに着けやすいモデルが増えているのは確かである。

二つ目の潮流、自社アーカイブの復刻・再コレクション化という点では、今年のSIHHではヴァシュロン・コンスタンタンとジャガー・ルクルトがそれに当たる。前者はブランド初の自動巻きムーブメントを搭載した1956年発表のシンプルウォッチを、後者は1968年に製造されたアラーム機能付きダイバーズウォッチをそれぞれインスピレーション源として新コレクションを発表。いずれも単なる復刻版ではなく、ヴァシュロンはわずかにスポーティー寄りに、ジャガー・ルクルトはややエレガント寄りに、要するにいずれもスポーティー・エレガントな方向にアレンジしている点が興味深い。言うまでもなく、オン・オフ問わずに着装しやすい点が魅力である。

ほかに目についたデザインを挙げるなら、今年SIHH初参加となったエルメス。角形とくくるのは憚られるほど優しげでお洒落なケースを特徴とする「カレ アッシュ」から、新しいダイヤルデザインを発表。ウォッチ専業ブランドではないため当然といえば当然だが、時計業界の潮流などどこ吹く風、基本的なデザイン要素のみでいとも簡単に新味のあるデザインを生み出すクリエイティビティーは、エルメスの真骨頂だ。

text:Hiroaki Mizuya(d・e・w)

photograph:Kazuteru Takahashi