メカニカルなIWCをいま一度打ち出す

「昨年、ブランド創業150周年を迎え、新工房がオープンできたことが何より喜ばしい。ムーブメント製造体制の強化、新素材の開発、それらによるコレクションの刷新がこの2年で取り組んだことだ」

一昨年にCEOに就任したクリストフ・グランジェ・ヘアも語るように、この数年IWCはムーブメントの内製化を進めている。ムーブメントを自社で製造するには、設備投資や人件費、開発費など多大なコストを要し、また年間数十万本とされる生産量を維持するためにも、IWCのムーブメントはすべてが自社製というわけではなかった。だが、今年リニューアルされた「パイロット・ウォッチ」コレクションでは、シンプルな3針からクロノグラフ、トゥールビヨンや永久カレンダーといった複雑機構まで各種の自社製ムーブメントを発表。自社製の比率は9割以上となった。メカ好きからすれば画期的な新機構にも期待したいところだが、それにも「時間はかかるが開発に取り組む」と意欲を見せる。

マテリアル開発の一つの成果「パイロット・ウォッチ・ダブルクロノグラフ・トップガン・セラタニウム」。軽量で耐傷性に優れた独自素材のセラタニウムを、ケース、リュウズ、プッシュボタン、ピンバックルに使用したスプリットセコンド・クロノグラフ。●セラタニウム。ケース径44mm。自動巻き。布製インレイ付きラバー・ストラップ。156万円(税別)〈IWC〉

時計を伝えるのではなく世界観を発信する

グランジェ・ヘアCEOが注力するもう一つのことが、ソーシャルメディアでの情報発信である。

「われわれが憧れのブランドであり続けるために必要なのはエモーショナルなプロダクトだ。今年、パイロット・ウォッチから発表したスピットファイアなどはその最たるもの。もとは英国王立空軍のために製造した時計。その歴史をあらためて伝えるために、1943年製の戦闘機スピットファイアを修復して今年世界一周飛行させる。こんなバックグラウンドのある時計はほかにない。こうした世界観を伝えるには、顧客にダイレクトに発信できるソーシャルメディアは有用だ」

十数名の技術者が2年かけてレストアしたスピットファイアに英国人パイロットが乗り込み、総距離4万3000kmをおよそ100カ所を経由しながら世界一周するプロジェクトになるという。

問い合わせ情報

問い合わせ情報

IWC

text:d・e・w
photograph:Kazuteru Takahashi