「J12」
──シャネル
変化を見せない高等テクニック──シャネルのエニグマ
2000年のバーゼルフェア。ブラックセラミックに包まれて黒光りする「J12」の登場は、それまでスイスの高級時計をよく知るプロには衝撃であった。素材もフォルムも色使いも、頭の中にある高級時計のイメージとはおよそかけ離れていたからだ。3年後ホワイトセラミックの「J12」が発表された。専門家たちの見方は冷ややかだったが……。
今年は「J12」誕生から20年が経つ。その後、セラミックケースのフォロワーが次々に出、いまでは黒も白も時計のお洒落な定番色になっている。いまやシャネルの先見性は誰の目にも明らかだ。
「J12」の登場は確実に高級時計のシーンを変えた
今年シャネルが発表した新作「J12」はある種のエニグマだ。さて何が変わったか? 一見どこも変わっていない。その実7割以上は変更されているという。シャネルのアイコンたる完璧なマスターピースにどう手を入れるのか。ベゼル、ダイヤル、リュウズ、シースルーバックのケース、ブレスレットのリンクなど細部が徹底的に検討され、微妙に変更が加えられたが、マスキュリンなイメージからエレガンスに針は振れている。最大の革新はCOSC認証の自動巻き、約70時間駆動の高性能ムーブメントに変わったことだ。
「J12」
シャネルは2016年創業の新鋭ムーブメントメーカー、「ケニッシ」に出資。今年の新作「J12」にはケニッシ製造の高性能自動巻きムーブメントが搭載される。これが最大の変更点でありアドバンテージだ。見た目では何が変更されたのかほとんどわからないが、細部の変更点は次の通り。ベゼルが細身になり、外周の刻みが30から40に増えた。リュウズの張り出しは抑えられ、ダイヤル上の文字・数字が細く優しくなり、タフなイメージよりもエレガントになった。またインデックスは従来のデルリン製からセラミック製に変更され立体的に。200m防水。
text:d・e・w
photograph:Kazuteru Takahashi