この時計は、こんな男を物語る
・日本のクールなものづくりに引かれる
・堅実さ、信頼感を重視する
・ユニークさ、オンリーワンに挑む
顔つきは正統派、でも中身はイノベーティブ
グランドセイコーは、日本発の高級時計を標榜して1960年にセイコーが立ち上げたブランドである。以降、精度や性能をブラッシュアップし続けて、実用時計の最高峰という地位を確立してきた。近年は、セイコーブランドからの独立を宣言し、グローバル戦略のもとに海外市場向けの製品開発にも注力。主にデザイン面からのアプローチでブランドの世界観を広げている。
ところが今年は、一転して内部機構の開発が結実する年となった。こうした技術開発力こそセイコーの本領であり、これまでの偉業を知る者としては心躍る気分なのだ。去る3月にいくつかの新型ムーブメントが発表されたが、中でも特筆に値するのがスプリングドライブのキャリバー9RA5。挑む男たちに薦めたいモデルが同キャリバーを載せた「スプリングドライブ 5 Days」である。
スプリングドライブとは、機械式と同様にぜんまいがほどける力を動力としながら、調速機構にICと水晶振動子を用いた駆動方式のこと。端的に言えば、機械式の味わいがありながら精度はクオーツ並みという特徴を持つ。機械式とクオーツの両方で高度な技術を有するセイコーだけが世界で唯一製造する、ユニークなムーブメントである。
このスプリングドライブの巻き上げ方式には、手巻きと自動巻きがある。これまで標準的な自動巻きスプリングドライブの連続駆動時間は、最大3日間(72時間)だった。それが今回のキャリバー9RA5では、約5日間(120時間)へと延長されたのである。
この長時間駆動が可能となったのは、2つの新しい技術によるところが大きい。駆動時間を伸ばすには、ぜんまいを内包した香箱(バレル)を増やすのが定石である。しかし、それだとムーブメントが大きく、または厚くなってしまうことが多い。そこでセイコーは、限られたスペースを最大限活用すべく、2つのバレルの大きさを変えて搭載することで長時間駆動を確保し、さらにムーブメントが厚くなるのを防ぐために、自動巻きの巻き上げ機構を見直して薄型化を図ったのである。
ほかにも、1枚のセンターブリッジで多くの軸を支える新設計により耐衝撃性を高める、水晶振動子を選別してエージングすることで平均月差±15秒から±10秒へと精度を向上させるなど、今回の新キャリバーでは、ほぼ全面的な刷新が行われた。
機械式の良さもあり、精度面も申し分ないスプリングドライブにとって、残された唯一と言っていい改善の余地が長時間駆動だったが、今年ついにその開発が実を結んだ。スプリングドライブ開発の一つの集大成と言えるキャリバーである。
このキャリバーを搭載した「スプリングドライブ 5 Days」はというと、見やすい針とインデックス、逆回転防止式の幅広ベゼル、4時位置にスライドさせたリュウズ……と、デザインはまさに正統的なダイバーズウォッチ。近年ダイバーズの人気が高いこともあるが、前述した耐衝撃性の高さを示すのにも好適だったのだろう。600mの飽和潜水用防水性能を誇る本格派である。
3日間の駆動時間は決して短いものではないが、5日間と聞くと、なおいっそう心強い。ダイバーズ特有のパワフルさもまた、頼もしさのシンボルとなる。堅実であることを旨としながら、タフなビジネスを乗り越えて新しさを打ち出そうとする、そんなメンタリティーを映し出す時計である。
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グランドセイコー専用ダイヤル:0120‐061‐012
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