無二のオリジナリティーを生んだ発想の妙

高級時計の中には、誕生から数十年、長いものでは1世紀近く受け継がれるロングライフなモデルがある。そしてそれらには、後世にまで語り継がれる類まれなストーリーやエピソードを持つものが多い。その一つがジャガー・ルクルトの「レベルソ」である。

レベルソの誕生は1931年。その当時、ヨーロッパの富裕層が嗜んだ競技の一つが、馬に乗ってマレット(スティック)で玉を打ち合うポロだった。ある時、ポロ好きのイギリス人将校から、ジャガー・ルクルトに一つの相談が寄せられる。「ポロの衝撃に耐えられる時計が欲しい」と。

このニーズに応えるために発明されたのが、ジャガー・ルクルトが特許を持つ反転式ケースである。ポロ競技で最も心配されるのが、時計を覆うガラスの破損である。玉やマレット、また相手との衝突からガラスを守るには、ガラス面を隠してしまえばいい。こうした発想から、ケースをスライドさせて時計の表裏を反転するという、レベルソ最大の特徴が考案された。

反転式ケースの仕組み。誰もが簡単に操作でき、リュウズが干渉しないように設計されている

この反転式のシステムは、さらにケースの形状も決定づけた。ケースをスライドさせるためには、丸形よりも角形のほうが都合がいい。そして20世紀初頭といえば、アールデコ隆盛の時代。角形の上下をやや伸ばしてレクタンギュラー(長方形)とし、その上下にゴドロン装飾(ライン状の溝)を加えるなどのディテールワークで、見事なアールデコ様式を創出したのである。いまも変わらずアールデコ・スタイルの好例と称されるレクタンギュラーケースは、ジャガー・ルクルトの発明力と繊細な美意識の賜物である。

1931年製、レベルソのファーストモデル。長方形ケースはストラップとの美しい一体感ももたらした

さらに、この反転式ケースは、レベルソにもう一つのアイデアを与えた。それがケース裏面へのエングレービング(彫金)である。時計の保護という機能的な役割だったケース裏面をキャンバスに見立て、そこに文字やモチーフをエングレーブすることで、時計のパーソナライズを可能としたのである。

現在はこのサービスをオンライン上で提供し、裏面に別のダイヤルがないソリッドバックのモデルであれば、新規に購入したものだけでなく、すでに所有しているものでもエングレービングが可能。用意されたフォントを使ったイニシャルや日付、シンプルなテキストを選べる標準オプションに加え、写真、スケッチ、アイデアをベースにオーダーメードにも対応する。特別モデルや限定品でなくとも、世界で唯一、自分だけの一本を手にすることができるのである。

好きな言葉やモチーフ、家族や大切な人のイニシャルのほか、ビジネスパーソンであれば大きな仕事を終えた日や独立起業した節目を刻むのもいいだろう。表面では世間一般の時間とつながりながら、ひとたびケースを反転させれば、そこには自分だけの時間が待っている。そんな心のオン・オフの切り替えに、レベルソほどふさわしい時計はない。

最後に、裏面にエングレービングができるモデルから、お薦めのモデルをピックアップしてお届けする。

「レベルソ・クラシック・ミディアム・スモールセコンド」。小ぶり、薄型ケースの控えめなモデル。工具なしでストラップの付け替えができるインターチェンジャブルストラップを採用。ストラップはアルゼンチンのブーツメーカー、ファリアーノ社のデザインによるもの。ステンレススティール。ケースサイズ42.9×25.5mm。手巻き。カーフ・ストラップ。3気圧防水。62万6000円(税別)
「レベルソ・トリビュート・スモールセコンド」。1931年製と1935年製のモデルに着想を得たトリビュート・モデル。針やインデックスの意匠が変わり、全体にクラシックテイストを基調とする。ストラップはファリアーノ社によるデザインで、インターチェンジャブル式。ダイヤルとストラップがブルーのモデルも展開。ステンレススティール。ケースサイズ45.6×27.4mm。手巻き。カーフ・ストラップ。3気圧防水。80万8000円(税別)。ブティック限定販売
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ジャガー・ルクルト
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