概念を変えたノーチラス、その一つのフィナーレ
パテック フィリップは今年、4月上旬にオンラインプラットフォームで開催されたWATCHES AND WONDERS GENEVAで新作の発表を行った。シンプル・クラシックな「カラトラバ」の新デザインや、海外とのやり取りに便利な「トラベルタイム・クロノグラフ」、さらにジュエリーウォッチやレディース向けモデルなど、コロナ禍の前と変わらぬ充実ぶりとなった。
メカニズムの面で特筆に値するのは新開発の機構を搭載した「インライン表示永久カレンダー」であるが、これは改めてプレジデント本誌(6月25日発売号)で詳報するとして、ここで取り上げたいのが「ノーチラス」のニューモデル。パテック フィリップ初となる、オリーブグリーンのソレイユ(中心から放射状に延びる装飾)文字盤を備えたモデルだ。
既存モデルからの変更点はこの新しいダイヤルになるが、じつはこのオリーブグリーンのモデルが生産されるのは今年だけという。さらにもう一つ加えたいのが、ノーチラスの3針、日付表示付きのステンレススティール製モデル(5711/1Aモデル)はこのモデルが最後となり、今後生産される見込みはない。本誌に先駆けていち早くお届けしたかった理由である。
ノーチラスが誕生したのは1976年、高級時計界に大きなインパクトを与えるデビューだった。当時の高級時計といえばゴールド製の薄型ケースで、デザインはクラシックを踏襲したもの、というのが時計関係者たちの認識だった。そこにノーチラスは、ボリューム感のあるステンレススティール製ケースと丸みを帯びた8角形のベゼルを携えて登場したのである。しかも、つくったのが高級時計の伝統を重んじるパテック フィリップ。新しさを創造してこその老舗ではあるが、その大胆さは高級時計の認識を変えるに十分だった。
それから45年、現在の高級時計界を見渡せば、スポーティーでエレガントな時計は多くのブランドから登場し、ウォッチデザインのメインストリームとなっている。その先駆けとなったモデルの一つがほかならぬノーチラスだったのである。そして、今回取り上げた新作は、ステンレススティール製ケースで高級時計の世界に新しい扉を開いたノーチラスの一つのフィナーレと言えるモデル。でき得ることなら、こんなメモリアルな時計を「今年の一本」としたい。
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photograph:Kazuteru Takahashi