真のラグジュアリーはユニークピースにある
今年の新作展開は各ブランドとも充実したものになったが、なかでもその存在感が際立ったのがヴァシュロン・コンスタンタンである。トゥールビヨンやスプリットセコンド・クロノグラフの複雑機構、極薄の永久カレンダー、あるいは工芸の技法を用いたメティエ・ダールなど多彩な新作を発表し、時計技術から装飾の技巧までメゾンの力量を知らしめた。
その最もシンボリックなものが、世界に1本だけのユニークピースをつくる「レ・キャビノティエ」コレクションである。もとは特別な顧客のオーダーに応えるために立ち上がったエクスクルーシブな部門で、2015年には表裏両面のダイヤルに57もの機能を搭載した超複雑懐中時計「リファレンス57260」を製作。「世界で最も複雑な時計を」というオーダー通り、史上最多の機能を備えた懐中時計だった。昨年はその流れを汲む両面ダイヤルの複雑腕時計2モデルを製作。そして今年は「天空の時間」をテーマとした三部作を披露した。
制約なしの自由なクリエーションが明日のヴァシュロンをつくる
「レ・キャビノティエはわれわれのR&Dの最高峰であり、クリエーティビティーの最高峰と言える部門だ。ここで目指すのは顧客が夢見る時計をつくること。そのためエンジニアやウォッチメーカーたちが制約なく、自由な発想に任せて時計づくりを行っている。ある意味、実験的なラボラトリーのようなもので、ここで起きたイノベーションが次のヴァシュロン・コンスタンタンをつくっていく」
こう話すのは、同社で製品開発を取り仕切るクリスチャン・セルモニ氏。ユニークピースの製作には手間もコストも要しリスクが高いものだが、それに挑むことがメゾンの明日をつくると断言する。
「まだまだ創意は尽きないが早急に規模を拡大することはない。言うなればチェリー・オン・ザ・ケイク。われわれの最上位に位置するもので年2桁を超える本数を製作するつもりはない」
創業266年の老舗がビジネス度外視で機構的・審美的に突き詰めたユニークピース。イノベーションとはきっとこんなシーンから生まれる。
キャリッジの上に獅子が輝く天体グランドコンプリケーション
トゥールビヨン、ミニッツリピーター、回転天空図(裏面)の3つの複雑機構を搭載したグランドコンプリケーション。直線状のギヨシェ装飾とダイヤモンドで描写した獅子座、ベゼルやラグにセットしたバゲットカットサファイヤなど、ジェムセッティングの技も光る。
精緻な装飾やジェムセッティングが織りなす時間と天空の神秘性
時分の表示が独立したレギュレーター式のキャリバーに、永久カレンダーと122年調整不要の高精度なムーンフェイズを組み込んだ。ベゼルや分目盛りの内側に配したジュエリーやツイストを加えたギヨシェ装飾が相まって、引き込まれていくような美しさだ。
縦横2軸のトゥールビヨンをはじめ多彩かつハイレベルな時計技術を凝縮
9時位置に縦横に回転する2軸トゥールビヨン、3時位置に時刻表示と南北両半球のムーンフェイズ、12時と6時位置に24時間および昼夜を表示する両半球のモチーフ、そしてその周囲に曜日と月の表示を備える。1時から5時位置の扇状の表示はレトログラード式デイト。
問い合わせ情報
ヴァシュロン・コンスタンタン
TEL:0120‐63‐1755
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