ランゲの完璧主義を示すシンボリックな特別モデル
リュウズを引き上げると時計の秒針が停止する「ストップセコンド機能」はA.ランゲ&ゾーネの歴史を語る一つと言っていいかもしれない。正確な時刻合わせを可能とするこの機能は、1994年にランゲ再興後のファーストコレクションとして発表されたときからマスターピースである「ランゲ1」に搭載されてきた。大型で見やすい日付表示(アウトサイズデイト)などと共に、時計の本質を突き詰め、使い勝手を追求するのはこのブランドのDNAなのである。
そのストップセコンド機能を史上初めてトゥールビヨンに搭載したのがA.ランゲ&ゾーネが2008年に発表した「カバレット・トゥールビヨン」である。トゥールビヨンとは時計の姿勢差による歩度の狂い(=時間の狂い)を低減するために考案されたもので、姿勢差を平均化するために脱進機にキャリッジを入れてそれを回転させるという複雑機構である。しかしながらそれまでは秒針を止めることができず、秒単位での時刻合わせはかなわなかった。
本来は精度を高めるために発明されたトゥールビヨンでありながら、正確な時刻合わせができないことにランゲの時計師たちは不満を抱えていたに違いない。前代未聞の機構に、技術的にもチャレンジ精神が刺激されたことだろう。そんな流れの中で登場したのが、前出のカバレット・トゥールビヨンである。トゥールビヨンのキャリッジが回転する様のみならず、リュウズを引くと特殊なレバーが作動してキャリッジの回転がストップする様をも見ることができる。ちなみにそれ以降、現在に至るまで、時計業界全体を見渡してもストップセコンド機能付きのトゥールビヨンは数えるほどしか製作されていない。
そしてこの夏、その特別限定モデルとなる「カバレット・トゥールビヨン“ハンドヴェルクスクンスト”」が登場した。“ハンドヴェルクスクンスト”とは、高度な職人技による芸術的な仕上げを施したモデルにのみランゲが与えている称号で、このモデルが7作目となる。今作ではダイヤルやムーブメントの受けに見られるダイヤパターンの装飾がそれ。特にダイヤルは職人が手作業で行うエングレービングとエナメルの技術により、立体感があり深みのある仕上がりとなっている。
A.ランゲ&ゾーネの時計がハイエンドといわれるのはその技術力だけのためではない。高級時計は美しくならなければならないのである。ユニークなトゥールビヨンの面白さもさることながら、「カバレット」のレクタンギュラーケースの完璧なプロポーションとダイヤルデザインの絶妙なバランス、そしてダイヤルやムーブメントに見られる工芸的な美しさ。ハイエンドウォッチのすべてがそこにある。
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A.ランゲ&ゾーネ
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