マリアナ海溝の潜水では1万mオーバーを記録

今年3月、オメガは「OMEGA Days」と称した独自の新作発表を行い、「シーマスター」「スピードマスター」「コンステレーション」などから20型以上のニューモデルを発表した。それらのうち、クオーツ時計を除いた機械式時計はすべてマスター クロノメーター認定取得モデルとなった。

この認定は、身近なところではMRI(磁気共鳴画像法)の磁気にも耐えられる1万5000ガウスの耐磁性能をはじめ、時計の精度や安定性の面で高い性能を有することの証しであり、オメガの自社認定ではなく、スイス連邦計量・認定局(METAS)という独立機関が検査を行い、認定を付与していることも特徴とする。この認定が制度化されたのが2015年のこと。それから7年を経ていよいよオメガの標準仕様となった。機械式時計について回るメンテナンスの負担を極力低減しようとするオメガの歩みが一つの到達点に至ったと言っていい。

そして、それらの新作の中でもひときわ異彩を放つのが「シーマスター プラネットオーシャン ウルトラディープ」である。このモデルの特徴はいたって明快で、6000mという並外れた防水性能を持ち、前出の独立機関・METASからISO 6425に準拠した飽和潜水用ダイビングウォッチであるという認定を受けたモデルとなる。

時計
「シーマスター プラネットオーシャン ウルトラディープ」。ケース、ブレスレットはステンレススティール(O-MEGAスティール)。ケース径45.5mm。自動巻き。6000m防水。147万4000円(税込)

今から3年前の2019年、オメガは初代「ウルトラディープ」を発表し、探検家ヴィクター・ヴェスコヴォの太平洋・マリアナ海溝の海底を目指すミッションに参加。ウルトラディープを潜水艇のロボットアームとデータ収集ユニットにそれぞれ装着し、水深1万925m(後に1万935mに更新)の潜水を無事に完遂した。この記録は、人類と時計が到達した地球の最深部として今なお破られていない。

今年の新しいウルトラディープは、この初代ウルトラディープを基に製品化したもの。公表では6000m防水と謳っているが、オメガではそこに25%のセーフティーマージンを加えた7500mを想定して検査を行っており、その条件で時計にかかる水圧は実に7.5トンに及ぶという。その水圧に耐えるために、組成均質性が高く強度にも優れるEFGサファイアクリスタルや、風防やケースバックとケースの密閉性を高める新設計など、いくつもの新技術が投入された。さらに、ステンレススティール素材には新開発のO-MEGAスティールを採用。一般的なステンレススティールを50%ほど上回る高い硬度(ビッカース硬度300)を有し、非磁性、アレルギーフリーという特徴も持つ。

こうした硬度や耐久性の高さを裏付ける事実がある。それが、ヘリウムエスケープバルブを不要とした点だ。通常、水深100mを超える飽和潜水用のダイビングウォッチには、海中から水面に上がる際に時計内に溜まったヘリウムを逃がすためのエスケープバルブという“逃し弁”を設けるが、このウルトラディープにはそのバルブが備わっていない。ケースやサファイアガラスがヘリウムの膨張に耐えられるほど強固で、時計が破裂する心配がないことから装備不要になったという。

時計
2019年発表の初代ウルトラディープではケースの厚みが28mm程度あったが、今年のモデルでは18.12mmにまで薄型化。日常的に着用しやすい厚みになった
時計
チタン製の裏蓋には、FOR SATURATION DIVING(飽和潜水用)などの文言がレーザーエングレーブで施される。通常ケース側面に備わるエスケープバルブがないことも見て取れる

オメガと海の関わりは長い。1932年発表の「オメガ マリーン」を嚆矢にダイビングウォッチ製造の歴史が幕を開け、48年には現在も受け継がれる「シーマスター」を発表。以後、海洋環境の探査・保護活動を意欲的にサポートしてきた。その最新の取り組みが、2019年に始まった海洋保護団体「ネクトン」の活動支援であり、前述の探検家ヴィクター・ウェスコヴォの海底探査への参加である。

地球の表面の70%は海が占めているものの、人類が海について把握しているのはわずか5%程度に過ぎないと言われている。オメガにとって海は未来へと保全し共存していくべきフィールドであり、一方で宇宙開発や月面探査と同様に未知へと挑むチャレンジングな舞台でもある。人類が地球の最深部に至る時、そこにある時計はオメガでなければならないとする自負こそが、6000m防水などというオーバー“すぎる”スペックを生み出したのだろう。精度・性能に執着する一流のウォッチメーカーでありながら、「そこまでやるか⁉」と唸らせる大胆さもまた、スイス時計界屈指のメガブランドの一面である。

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text:d・e・w
photograph:Kazuteru Takahashi