本物志向やミリタリーファンも納得。ブレゲの"由緒正しき"パイロット・クロノグラフ［空から生まれた名作時計#2］

パイロットウォッチ好きに耳寄りの新作がこの夏ブレゲから登場した。それが今回取り上げる「タイプ XX」の2モデルである。

タイプ XX（トゥエンティ）は1950年代にブレゲがフランス軍向けに製造したクロノグラフを起源とするコレクションで、20世紀後半に一度ラインアップから姿を消すことはあったものの、時代のニーズに合わせてリバイバルし、機能面・デザイン面のブラッシュアップを行ってきた。今回が4度目の大幅なリニューアルとなり、ブレゲでは今年発表のモデルを第4世代と位置づける。クラシシズム特有の気品を携える時計が多いブレゲでは数少ないスポーツカテゴリーのコレクションで、それ故にコアなファンも多い。

新しいタイプ XXの2モデルは、ともにクロノグラフ計測時のストップ、リセット、リスタートがワンプッシュで行えるフライバック・クロノグラフを搭載する。基本的な性能は同一で、機能面での違いはクロノグラフの積算計の仕様と、ベゼルの目盛りの有無といったところ。だが、第4世代と称するだけあって、内部の新型キャリバーにはブレゲが有する機械技術が惜しみなく投入された。

時計の精度を司る脱進機のひげぜんまい、ガンギ車、アンクルは、耐摩耗性や耐腐食性に優れ磁気の影響も受けないシリコン製とし、毎秒10振動というハイビートでありながら60時間という十分な駆動時間を確保した。クロノグラフ機構には、計測スタート時の針飛びを予防する垂直クラッチを採用し、さらに摩擦の低減を見込んでコラムホイールにはブラックDLC加工を施すという新しい試みも盛り込まれた（特許出願中）。さらに外装面では、タイプ XXでは初めて工具なしでストラップの交換が可能なシステムが採用された。

性能面に差異がないということは、これはもう見た目の好みで選べばいい。ともにパイロットウォッチの魅力である精悍さを湛えながら、2カウンターの「タイプ 20 2057」は20世紀半ばのレトロで優しげな趣が薫り、スーツスタイルにも似合う上品さを携える。片や3カウンターの「タイプ XX 2067」はよりアクティブで活動的なデザインで、オンタイムのジャケットスタイルやオフのスポーティールックに調和するはずだ。

さて、お気づきのように、この2モデルは同じタイプ XXコレクションに属しながらデザインが大きく異なり、さらにモデル名にも「タイプ 20」と「タイプ XX」という数字の表記が異なる名称が冠されている。これはデザインの着想を得た時計の違いから生じている。

懐中時計の時代からクロノグラフ開発の先駆的存在だったブレゲは、20世紀に入るとクロノグラフ付き腕時計の製造でも名声を得る。その高い性能や信頼性はフランス軍にも認められ、ブレゲ社の資料によれば、1930年代以降に「航空環境の特別な規定に合致する多数の“特注”と称する製品」を供給したという。その多くは、軍用の航空と国営航空会社として創設されたばかりのエールフランスに納められた。

こうした流れの中で、ブレゲは1955年から1959年にかけて30分積算計付きのクロノグラフをフランス空軍に納品する。ケースバックに「BREGUET‐TYPE 20＝5101／54」と刻まれたこの時計に範を得て作られたのが今年のタイプ 20である。そしてこの空軍向けのクロノグラフは、次第に民間航空の人々や時計愛好家の間でも話題となり、1950年代から1960年代にブレゲは積算計の仕様や裏蓋の刻印を変更したモデルを市販する。この民間向けのモデルをもとに作られたのがもう一つのタイプ XXとなる。タイプ 20という表記はフランス空軍の仕様の名称だったため、それと区別するためにローマ数字が用いられたという。

パイロットウォッチとは航空機の操縦士のために開発され、最適化されてきた時計である。各国の空軍や海軍航空隊などと深く関わってきた時計ブランドも少なくない。中でもブレゲとフランス空軍の関係性は際立っており、その深さ、長さともに他と一線を画すものがある。時代時代の先端技術が集う軍の装備品として用いられ、彼らのニーズとともに進化したタイプ XX。“由緒正しき”パイロット・クロノグラフと称するゆえんである。