メカとダイヤモンドがこれほど調和するなんて
機械式時計は男のもので、ジュエリーウォッチは女性のもの、などという認識も今は昔、女性たちの間にも機械式時計が浸透して久しい。時計好きの男の時計店通いに付き合っているうちに、機械式時計の魅力に目覚めてしまった、という女性はかねてよりいたが、近年は高級時計のブティックに1人で訪れる女性も少なくないのだという。最高峰の技が駆使されたものや徹底的に磨き抜かれたものは、性の別を問わずに人々を魅了する力があるということだろう。
機械式時計の魅力にはまってしまったパートナーにより奥深い世界を伝えたい、という好事家の2人に薦めたいのが、今回取り上げるブレゲの「トラディション」である。一見して分かるように、時計の表面からも機械式ムーブメントが、しかもブリッジや輪列がシンメトリックに配されたメカニズムの美しさが堪能できるコレクションである。
まず女性向けには、「トラディション レディ 7038」をセレクトした。オフセンターのダイヤルはマザー・オブ・パール製で、そこに施された繊細なギヨシェ彫りや、設置されたブレゲ針がクラシックな気品を漂わせる。ベゼルで程よいきらめきを放つのは68個のブリリアントカット・ダイヤモンド。それらの上品さを損なわないように、ムーブメントのブリッジやプレートをライトトーンの色みに仕上げた点が秀逸だ。機械式特有のメカメカしい世界と、ダイヤモンドらが織り成す優美なイメージという、一見相反するような要素が絶妙に調和した異色の“コンビモデル”である。
そして男性向けにセレクトしたのが、メカ好きの心をわしづかみにしそうな「トラディション オートマティック レトログラード セコンド 7097」。ダークトーンに抑えられたムーブメントの色みや、ブリッジや歯車が織り成す立体感には彫塑的な美しさがあり、シリコン製のひげぜんまいとアンクルが生むテンプの振動、そして60秒ごとに針がジャンプするレトログラード式秒表示は、メカニズムの動きをダイレクトに眺められる魅力がある。時間を忘れて1人悦に浸る愉しさがある。
100年、200年という長い歴史を持つ老舗にとっては、時計製造の遺産をどのような形で継承し、いかなる手法で未来に発展させていくかが重要だ。その点、ブレゲのスタンスは明瞭であり、あらゆる創作の起点にはブランド創設者のアブラアン‐ルイ・ブレゲがいる。現在ブレゲが得意とする多彩な装飾もその大半はルイ・ブレゲに由来するものであり、メカニズムの面においてもまた然りである。
ここで取り上げたトラディション・コレクションもその例に漏れない。デザインの面ではケース側面に施されたコインエッジ装飾や、ダイヤル上で存在感を放つブレゲ針、一方のメカニズムでいえば、耐衝撃性を高めるパラシュート機構や時計精度の向上に寄与したブレゲひげぜんまい。これらは全てルイ・ブレゲの発明を現代的な技術でブラッシュアップしながら受け継いだものだ。
そして、このコレクションの最大の特徴であるダイヤルをオフセンターに置いて内部のムーブメントをあらわにする仕様もまた、かつてルイ・ブレゲが考案した「スースクリプション」という懐中時計に範を取って2005年に誕生したもの。現代のブレゲが過去に向き合い、現代的な解釈を加え、未来に向けて創造したプロダクトである。これまで以上に豊かな時間を創造しようとする2人のマイルストーンとしてもふさわしいペアウォッチである。
お問い合わせ
ブレゲ ブティック銀座
TEL:03‐6254‐7211
photograph:Kazuteru Takahashi
edit & text:d・e・w