女性のお守りがダイヤモンドなら男の武器はこれ。互いを敬う2人のためのペア時計［目利きのためのペアウォッチ＃5］

ダイヤモンドは女性にとってお守りのような存在であると聞く。人前に出るシーンやここぞの場面で、自らを落ち着かせ、自信を与えてくれる力があるのだという。男にとっての仕立ての良いスーツや丁寧に磨き上げられた革靴ということだろう。身に着けるものが自信を与えてくれるということは往々にしてある。

では、腕時計において女性のお守りがダイヤモンドウォッチであるならば、男にとっての護符とは何か。かつてあるエグゼクティブがこんな私論を説いたことがある。「男の武器はコンプリケーションだ」と。精密なメカニズム、素材加工のテクノロジー、メカニカルの技術、時計師たちの創意と熱意……と、複雑機構を載せたコンプリケーションとは、いわば時計製造の集大成的モデルである。詰め込まれた技と熱量、そしてわずかしか生産できない希少性からすれば、男の護符、あるいは武器と称することに何ら異論はないだろう。

ダイヤモンドの扱いとコンプリケーションの製造を両立するブランドはまれだが、その数少ないメゾンの一つがピアジェである。今回、ペアウォッチをセレクトしたのは、近年メゾンの顔になっている「ピアジェ ポロ」コレクションから。ラウンド形ケースとクッション形のダイヤルを組み合わせた独特のケースフォルムを持つコレクションで、優雅でいて大胆、スポーティーでありながらエレガントなたたずまいを特徴とする。

まず、女性向けには、ケース径36mmのモデルからコンビモデルをセレクトした。18Kピンクゴールドとステンレススティールから成るケースとブレスレットは華やかで優美、なおかつリゾート地などに似合いそうなリラックス感もある。そこに艶やかさを添えるのがベゼルにセットされたラウンド・ブリリアントカット・ダイヤモンド。工具不要で交換できるブレスレットを付け替えれば、華やかな場にもリラクシングタイムにもなじむこのデザインの幅広さがより実感できそうだ。

そして男性向けには、ケース径42mmの永久カレンダーモデルをセレクトした。月、曜日、日付、そしてうるう年まで表示するカレンダー機構で、一度セットすれば西暦2100年までは修正不要。数ある暦表示でも最上位に位置する機構である。6時位置にはムーンフェイズも備わり、これほどの表示を搭載しているにもかかわらずケース厚を8.65mmの薄型時計に仕上げている点は、ピアジェの面目躍如である。こちらも工具を使わずにブレスレットの交換が可能で、ダイヤルと同色のダークエメラルドグリーンのラバーストラップが付属する。

ピアジェがダイヤモンドの扱いとコンプリケーション製造の双方に長けている理由は、その歴史をたどれば明らかになる。ピアジェの創業は1874年のこと。スイス・ジュラ山脈のラ・コート・オ・フェという村にムーブメントの工房を開設したことに端を発する。メゾンの転機となったのが、1957年発表の「9P」と1960年発表の「12P」という2つのキャリバー。それぞれ手巻き、自動巻きとして当時世界で最も薄いキャリバーを生み出し、薄型時計とそこから得られるエレガンスはピアジェのアイデンティティーとなった。

1960年代にはジュエリー工房を傘下に収めて自社内でジュエリーウォッチの製造を開始し、21世紀になるとコンプリケーションの製造にも乗り出す。いずれも創造の起点には9Pと12Pから受け継がれる薄型のDNAがあった。薄型であればこそジュエリーウォッチの創造は既存の枠を超え、薄型であればこそメカメカしさとは対極にある気品に満ちたコンプリケーションを作り得たのである。

さて、今回セレクトしたピアジェ ポロは、1979年に発表されたモデルの系譜に連なるコレクションである。70年代から80年代にかけては、ファッションやラグジュアリーの世界で日々新しいクリエーションに沸いた時代であり、ピアジェがジュエリーやジュエリーウォッチでセンセーションを起こしていた時代である。

そう聞くと、ピアジェ ポロの大胆かつ優美なベゼルや、文字盤のストライプ装飾には往時の華やかさが宿るよう。ピアジェでは珍しいスポーティーなデザインではあるが、軽妙であるものの野暮ったく見えないのはやはり薄型ケースによるところが大きい。薄型の追求とはすなわちエレガンスの追求に他ならない。審美眼に優れた目利きに薦めるゆえんである。