最古参メゾンながらセンスはどこまでも現代的
神は細部に宿る――この言葉を体現するかのように、ディテールのサイズやバランスに徹底してこだわり、仕上げの美しさを追求するのがヴァシュロン・コンスタンタンの時計作りである。そのDNAを色濃く映し出すのが、上質でエレガントなシンプリシティーを基調とする「パトリモニー」コレクション。今年、このパトリモニーがコレクション誕生から20周年の節目を迎え、それを記念して3本の新作が発表された。
中でも目を引くのが、まったく新しいカラーをまとったモデルだ。今年、ヴァシュロン・コンスタンタンはメゾン初となるカラーのダイヤルとストラップを発表した。まずダイヤルは、サンバースト仕上げのアンティークシルバーという色み。1950年代のエレガントな空気感と、その時代にメゾンが製作した時計のクラシシズムに範を取ったという。シルバーと称しているものの、ややベージュがかった色みにどこか懐かしさを漂わす。
このダイヤルに、同じく新色となるオリーブグリーンのストラップを合わせたのが下の2モデル。「パトリモニー・ムーンフェイズ&レトログラード・デイト」と「パトリモニー・マニュアルワインディング」である。やや懐かしげなアンティークシルバーダイヤルを備えながらも今風に感じられるのは、ライトトーンのストラップを合わせて軽やかに、優しげに仕上げているためだろう。ビジネスシーンではなかなか着けにくいオリーブグリーンだが、実はネイビー、グレー、そしてブラウンなどとも合わせやすい、使い勝手の良いカラー。ゆとりのあるウィークデーに、あるいはリラックスして過ごすウィークエンドに、さりげなくセンスを表現してくれる1本になる。
そしてもう一つが、アジュールブルーという新しい色みのストラップ。こちらはパトリモニー・マニュアルワインディングのみでの発表となった。青空や貴石のサファイアのような澄んだ青色を指すことが多いアジュールというネーミングのとおり、一般的なブルーよりもやや淡い色み。アンティークシルバーのダイヤル、18Kピンクゴールド製のケースと相まって、全体に優美で軽妙な印象を漂わせる。例えばリネンやシアサッカーのジャケットなど、これからのシーズンの装いによく似合う時計である。
ヴァシュロン・コンスタンタンは創業から269年の歴史を有する老舗であるが、これらの新作のエステティクスからは老舗に付き物の重厚さや物々しさ、あるいは野暮ったさといった印象は微塵もない。あるのは今風の軽やかさであり、優しげな美しさだ。スイスきっての老舗でありながら、そのセンスはどこまでも現代的。であればこその老舗であろう。時代と調和しながら、新しさを受け入れる姿勢に老舗の本領を見た思いだ。
photograph:VACHERON CONSTANTIN
edit & text:d・e・w