これほど使い勝手の良いダイバーズがあっただろうか
今から55年前の1969年にゼニスが発表したクロノグラフムーブメントのエル・プリメロは、ゼニスの歴史のみならず時計の歴史をも画するエポックメーキングな発明だった。このエル・プリメロのアドバンテージがどこにあったかというと、世界初の自動巻きのクロノグラフであること、毎秒10振動のハイビート、すなわち高精度が見込める機械であること、そして他に比べて手頃な価格で生産、供給できたことである。
1970年代以降、名機の誉れ高いこのエル・プリメロを武器にゼニスはスポーツウォッチの世界で飛躍を遂げる。カーレースのスピリットを載せたクロノグラフ、飛行士たちのニーズに答えるパイロットウォッチなどは、現代のゼニスも大切にしているアクティブな世界観だ。ただ、現行のラインアップで唯一、物足りなさが残るのが海の世界、すなわちダイバーズウォッチだった。
今年のゼニスは、そんな物足りなさを吹き飛ばすかのように「デファイ エクストリーム ダイバー」を発表した。20世紀の終盤までは、ゼニスでも本格ダイバーズウォッチを製造していた歴史があるが、この新作はそうした数々のアーカイブに範を取ったモデルである。その特徴を端的に述べれば、プロユースにも耐えうる本格的なスペックと、タウンユースにもふさわしい軽快なデザインを両立したモデルである。
まず、ケースは軽量で強度や耐食性に優れるチタン製。ベゼルは逆回転防止タイプで、素材は傷に強いセラミック。9時位置側のケース側面には、飽和潜水を想定したヘリウムエスケープバルブが備わる。リュウズはねじ込み式を採用し、シースルーケースバックでありながら防水性能は600m(=約1969フィート)。太めの時分針とアワーマーカーは視認性も高く、3種の蓄光塗料を使い分けているため暗闇でも時、分、秒の把握が容易に行える。
そして内部機構はエル・プリメロのクロノグラフモジュールを省いたエル・プリメロ 3620 SCを搭載し、耐磁性や耐衝撃性を確保……と、一つ一つのディテールを丁寧に作り込んだ結果、潜水時計の国際規格であるISO 6425に準拠したダイバーズウォッチが完成した。スポーツウォッチ製造に長けるゼニスの面目躍如である。
そして、この本格ダイバーズの発表に合わせてもう一つ特別なモデルもリリースされた。それが「デファイ リバイバル A3648」である。A3648とは、1969年にゼニスが製作したダイバーズウォッチのリファレンスで、数々のアーカイブの中でもとりわけファンの人気が高い。そのモデルを復刻したのが下のモデルとなる。
37mm径という小ぶりなケースサイズは往時のスタンダード。その一方で、8角形のファセットケース、腕時計では極めて珍しい14面のベゼル、その外に置かれたオレンジ色のダイビング目盛り、4時位置にスライドさせたリュウズ、一部のコマが丸みを帯びた5連のブレスレットなど、どのディテールを取ってみても個性的だ。1960年代から70年代にかけては、時計に限らずデザイン全般の黄金期。新しいデザインが次々と生まれた華やかな時代性が伝わってくるようである。
性能面に目を向ければ、ねじ込み式リュウズにより600mの防水性能を確保し、針やアワーマーカーには白色の蓄光塗料を施して暗所での視認性も確保。ブレスレットにはミリ単位の長さ調整が可能なバックルが備わる。ダイバーズウォッチとしての実用性をないがしろにしないあたりに、ファインウォッチメーカーとしてのゼニスの自負が見える。
photograph:ZENITH
edit & text:d・e・w