500年の時計技術とミニマリズムが出会ったら
パルミジャーニ・フルリエから目が離せない。高級時計の世界には10年ほどのタームで目覚ましいブランドが現れるが、近年でいえばパルミジャーニ・フルリエがその1つかもしれない。
ブランドの創業者は、前世紀後半に歴史的な懐中時計やクロック、ミュージアムに展示されるような時計の修復を多数手掛けたミシェル・パルミジャーニ。「私の手には500年の時計技術がある」と自負する彼の手から、クラシシズム特有の意匠や装飾の粋を凝らした高貴なタイムピースが生み出されてきた。伝統的な美意識は“これぞ高級時計”という風格にあふれるが、一方で現代の服装やシーン、ライフスタイルからするとやや過剰に感じられることもあった。
そのパルミジャーニ・フルリエに新風を吹き込んだのが、現ブランドCEOのグイド・テレーニである。彼は2021年にCEOに就任すると、ミシェルのフィロソフィーをリスペクトしながらよりミニマムに、より現代的に表現するアプローチをとった。その最初の成果となったのが2021年に登場した「トンダ PF」である。既存デザインを再創作したトンダ PFは、古典を踏まえた気品がありながら現代的な軽やかさもあり、コンテンポラリー・クラシックとでも呼びたくなるような妙味があった。ミシェルとグイド、2人のシナジーがブランドの歴史に新しい扉を開いたのである。
その歴史に新しく書き加えられたのが、今年登場した「トリック」コレクションである。トリックは1996年のブランド創業時からあるコレクションであり、ミシェルが最も大切にしているデザインである。変えようがないほど完成されたデザインをどう再構築したのか。テーマは“ドレスウォッチの本質”だという。論より証拠、思わず快哉を叫びそうになるほど美しいディテールを、余すところなくお届けする。
装い新たに登場したトリックは、上に紹介したスモールセコンド付きモデルに加えて、クロノグラフ機構の中でも製作の難度が高いラトラパンテ(スプリットセコンドクロノグラフ)を搭載した「トリック クロノグラフ ラトラパンテ」も発表された。
ラトラパンテはカーレースなどでラップタイムを計測するために用いられてきた歴史があり、それ故にデザインはアクティブなモデルが多い。だがこのトリックの新作は、そんなイメージを一掃するほどのエレガンスが際立つ。ケースやダイヤルの色み、優美な曲面を多用したフォルム、針やインデックスなどの繊細なディテールが相まって、ドレスウォッチと称しても何ら遜色のない気品にあふれる。
そして内部に搭載するのは、クロノグラフモジュールを積んだムーブメントではなく、時刻表示の機構に組み込んだ一体型のクロノグラフムーブメント。時代と調和するデザインに生まれ変わる一方で、品質や信頼性にこだわるウォッチメーキングは創業時から変わることがない。
photograph:PARMIGIANI FLEURIER
edit & text:d・e・w