転機は10年前。常識破りの発想で新地平へ
2024年はピアジェが創業してから150周年という大きな節目となる。このアニバーサリーを記念したモデルがいくつか発表されたが、中でも特筆に値するのが「ピアジェ アルティプラノ アルティメート コンセプト トゥールビヨン」。ケース厚2mmという、手巻きトゥールビヨンとしては世界で最も薄い時計を披露したのである。
この新作は、およそ70年にわたり薄型時計を研究・開発してきたピアジェの1つの集大成だと言っていい。1950年代から60年にかけて、ピアジェは手巻きと自動巻きの両方で、当時としては世界で最も薄いムーブメントとなるキャリバー9Pと12Pを発表。薄型時計開発の頂点的な地歩を占め、以後、この9Pや12Pをベースとした開発を進めてきた。
転機となったのが、創業140周年を迎えた2014年。この年、ピアジェは大胆な発想で時計関係者たちの意表を突く。ムーブメントの地板と時計のケースバックを一体化する構造がそれだ。地板がケースバックを兼ねれば時計はその分薄くなる。ムーブメントを通常とは逆に、表裏反対に配置すればそれが可能だ。ブリッジがダイヤル側になるが、輪列などを見せる工夫をすればピアジェらしくエレガントでさえある。ムーブメントはケースに収めるものという時計構造の常識を変えたコペルニクス的転回だった。
そしてこの新しい構造は、以後、ピアジェの薄型時計開発の中核となった。18年にはこの構造をベースに5つの特許技術を駆使した「アルティプラノ アルティメート コンセプト」を発表する。ケース厚は2mmまで薄型化されたが、このモデルは販売されることのないコンセプトウォッチ。物理的に製品化は難しいだろうと、冷ややかに見る関係者も少なくなかった。
しかしながら今年、そのコンセプトウォッチを単に製品化するだけでなく、複雑機構のトゥールビヨンを組み込んでなおケース厚2mmという薄型に収めたのがここで取り上げたモデルである。一般的に、トゥールビヨンは回転するキャリッジを支えるために上下どちらかからブリッジで固定する必要があるが、それではムーブメントが厚くなる。そこで新たに開発したのが、キャリッジの外周をセラミック製ボールベアリングで固定する機構である。さらにサファイアクリスタルの厚みをコンマ1mm単位で薄くするなど、ほとんど全てのパーツを見直したことでケース厚2mmの薄型トゥールビヨンへと至った。
ジュエリーやジュエリーウォッチも手掛けるピアジェからイメージされるのは、優雅で上品、ラグジュアリーな世界観だ。しかしながら、こと薄型時計開発に関しては、コンマ1mmを追い込むような並々ならぬ熱意やストイックな姿勢を感じずにはいられない。そこにはムーブメント工房を起源とするピアジェの威信があり、薄型時計の第一人者という自負がある。何より求めるのは薄型時計ならではのエレガンスだ。上品なたたずまいの内に秘める時計師たちの熱いスピリット。エグゼクティブのパーソナリティーと響き合うものがありそうだ。
photograph:PIAGET
edit & text:d・e・w