未来の名作は異色から生まれる
高級時計の世界には、半世紀を超えて親しまれるようなロングライフな名作がある一方で、登場から程なくして確かな地位を築くタイムピースがある。初見ではなかなか理解しにくいデザインながら常に頭から離れず、気がつけば見るたびに心地よさを感じている、という類の時計だ。「現代の名作も誕生時は異色だった」とはよく聞くフレーズだが、そうした時計と同時代を生きていると、異色から名作への進化の過程を見届けているようで心躍るものがある。
昨今でいえば、オーデマ ピゲの「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ」(以下CODE)がまさにそんな時計である。デビューは2019年。オーデマ ピゲには大ヒットの「ロイヤル オーク」というコレクションがあるが、それに続く柱にすべく打ち出したのは、8角形のミドルケースとオープンワークが施されたラグ、そして縦横にダブルカーブした風防を持つ何とも異色な時計だった。しかもネーミングもまた斬新。戸惑いを覚えた時計関係者も少なくなかったはずだ。
しかしながら、その根底に伝統的な美意識や技が息づいているためだろう。CODEはデビューからわずか数年で名実ともにオーデマ ピゲのピラーコレクションとなり、ひいては高級時計の世界を代表するラウンド形ウォッチになりつつある。誕生から7年目を迎えた今年、新しくコレクションに加わったのが、スレートグレーと「ナイトブルー、クラウド50」というオリジナルカラーでダイヤルを彩ったモデルである。


ダイヤルには、伝統的なギヨシェ彫りを現代的に解釈したかのようなエンボスパターンが同心円状に施されている。外に向かうに連れて溝の幅を広げることで、スレートグレーの色みに明暗を与えるとともに、見る者をダイヤルセンターに引き込むような視覚効果を生み出した。1枚ダイヤルなのに奥行きを感じるのはそのためだ。
また、ダイヤル外周のインナーベゼル部分には、独自色のナイトブルー、クラウド50をPVD加工で施した。このカラーは、前述したロイヤル オークのファーストモデルに使われたもので、オーデマ ピゲを象徴する色みの一つ。優しげなスレートグレーに精悍な印象を添え、格調高いテイストへと仕上げられた。
さらに、このモデルと同じデザインコードで、クロノグラフモデルも登場した。搭載するキャリバー4401は、安定性に優れるコラムホイールと垂直クラッチを採用した一体型クロノグラフキャリバーで、クロノグラフの再計測が容易なフライバック機能を備える。ダイヤル上のスモールセコンドやカウンターの目盛り部分にもナイトブルー、クラウド50をあしらい、ツートンカラーがより楽しめるようなフェイスだが、主張はいたって控えめ。落ち着いた大人にふさわしいクロノグラフである。


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オーデマ ピゲ ジャパン
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photograph:AUDEMARS PIGUET
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