この設計はマニュファクチュールならでは

現在の高級時計の世界では、複雑機構をいかに簡潔に作り上げるか、という開発の方向がある。複雑なものを複雑に作るのは二流、シンプルに作ってこそ一流というウォッチメーカー魂によるものだ。メカニズムを簡潔化して不具合を減らす、機能の操作を簡便にする、あるいは表示を見やすくするといった、ユーザーフレンドリーな開発に取り組むウォッチメーカーは少なくない。

いくつかある複雑機構の中でも、簡潔に作り上げる力量が問われるのがパーペチュアルカレンダーである。永久カレンダーとも呼ばれるこの機構は、時刻に加えて、日付、曜日、月、うるう年を表示し、それらの表示が西暦2100年まで修正不要という高度なメカニズムである。当然、文字盤上の表示が煩雑になりがちなのだが、今年はその難点を鮮やかに覆すモデルが登場した。パルミジャーニ・フルリエの「トリック パーペチュアルカレンダー」である。

時計
昨年リニューアルされた「トリック」はローレット加工ベゼルや、小ぶりなアプライドインデックス、ダイヤルのグレイン加工などをデザイン的な特徴とする。今年は「トリック パーペチュアルカレンダー」が登場。ミニマルに徹するクリエーションがいかにもこのメゾンらしい。18Kローズゴールドケース。ケース径40.6mm。手巻き。30m防水。アリゲーターストラップ。1397万円(税込み)。世界限定50本
時計側面
永久カレンダー機構を搭載しながらもケース厚は10.9mmと適度な厚みに抑えている。ミドルケースはより薄く見えるようにフォルムの工夫が施されている。通常はもっと目立つところに配置される永久カレンダーの調整ボタンがリュウズ付近にまとめられている点も特徴的
ケースバック
搭載するのは自社製手巻きムーブメントのキャリバーPF733。18Kローズゴールド製でコート・ド・フルリエと呼ぶ独自の装飾を施す。ツインバレルを備え60時間のパワーリザーブを有する

このトリック パーペチュアルカレンダーが優れているのは、前述のような多くの表示を2つのインダイヤルに集約したことだ。2つの表示を同じ軸の指針で示す同軸配置の技術を駆使して、ダイヤルの左右に日付と曜日、月とうるう年の表示を振り分けた。セットで知りたくなることが多い日付と曜日を同軸で配置した点もユーザビリティーが考え抜かれており、ムーブメントの設計・開発・製造の全てを行える本格マニュファクチュールならではのメカニズムである。

パーペチュアルカレンダーとは思えないほどの広大なダイヤルスペースには、パルミジャーニ・フルリエが得意とする手作業でのグレイン仕上げを施した。シンプルでありながら単調ではなく、その質感が心に染み入るような豊かさを生み出す。微細な凹凸がある文字盤は、指針が落とす影も美しくにじませる。

時計
同じ「トリック パーペチュアルカレンダー」から、プラチナ製ケースとモーニングブルーという色みのダイヤルを組み合わせたモデルも発表された。プラチナケース。ケース径40.6mm。手巻き。30m防水。アリゲーターストラップ。1511万4000円(税込み)。世界限定50本

芸術や創作の分野では、抑揚や緩急、あるいは静と動というように、対照的な2つの要素を併せ持つものほど魅力的に映るということが往々にしてある。ダイヤルを安易に埋め尽くすのではなく、空いたスペースも見せることを考えて計算されたトリック パーペチュアルカレンダーは、まさにそんなことを思わせる。エグゼクティブの確かな審美眼や、洗練された感性をこれほど雄弁に物語ってくれるタイムピースは多くない。

問い合わせ情報

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パルミジャーニ・フルリエ
TEL:03‐5413‐5745


photograph:PARMIGIANI FLEURIER
edit & text:d・e・w