一見奇抜、知れば知るほどに本流
新作腕時計を取材する上で、新しいコレクションの発表は特別な楽しみである。どんな新しいスタイルに出合えるかという期待に加え、そのブランドが現在をどのように捉え、どんな未来を描こうとしているかがおぼろげながら見えてくるからだ。今年もいくつかの新コレクションが発表されたが、とりわけ耳目を集めるのがオーデマ ピゲの「ネオ フレーム ジャンピングアワー」である。
このモデルは、レクタンギュラー(長方形)ケースの横枠を省き、縦枠のみで構成したフォルムと、時分をそれぞれの小窓で表示するアパーチャー(表示窓)式の時刻表示を主な特徴とする。アールデコ様式を思わせる大胆なフォルムや、ケース縦枠に施された優美なゴドロン装飾、漆黒のダイヤルとゴールドの艶やかな組み合わせなどが相まって、ヴィンテージ感とラグジュアリーが同居する独特のテイストを創出した。
オーデマ ピゲには、スポーティーウォッチにラグジュアリーな解釈を与えた「ロイヤル オーク」があり、コンテンポラリーなデザインを格調高く表現した「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ」がある。そこに今度は、ヴィンテージテイストとモダンな感性を融合させた“ヴィンテージ・ラグジュアリー”とでも呼ぶべきスタイルを打ち出した印象だ。これら一連の創作はすなわち、どんな時代のどのテイストでもラグジュアリーに表現できるだけの力量を有することの証しである。高級時計が高級であるために必要なことを、このブランドはよく知っている。



このモデルに採用されたジャンピングアワー式の表示は、数字が一瞬で読み取れる、アナログ表示にはない独創性がある、時表示が一瞬で切り替わる様が心地よい、といった多彩な魅力がある。近年はこの機構を採用するブランドが微増傾向にあるものの、昨今のオーデマ ピゲにはほとんど見られなかったものだ。突飛な発想かと思いきや、その実、ブランドの歴史に深く根付く。
ジャンピングアワーの腕時計が最初に注目されたのは、腕時計の誕生から20年ほどが過ぎた1920年代のこと。その普及に先駆的な役割を果たしたのが、他ならぬオーデマ ピゲだった。同ブランドの発表によると、1924年から51年までに計347本のジャンピングアワー腕時計を販売した記録が残る。
そのうちの一つ、1929年に製作された「プレモデル1271」と呼ばれるモデルが、前述の新作の着想源となった。ケースの縦枠やゴドロン装飾、そしてストラップにつながるようなフォルムのラグは、そのアーカイブのデザインを踏襲したもの。一方で、ケースの横枠を省きながら風防のサファイアクリスタルをケースに留める独自製法や、アワーディスクの誤作動を防ぐ特許取得の耐衝撃システムなど、現代のオーデマ ピゲの技量を示す新しい技術が盛り込まれた。単なるリバイバルではなく、最新の技術を駆使してリファインを図るのは一流マニュファクチュールの面目躍如である。
通常のアナログ表示を見慣れた目には、アパーチャースタイルは特異に映ることだろう。すでに何本も手にした好事家がたどり着く時計かもしれない。だが、だからこそ凡百の時計では表現できない人となりを発信する無類のツールとなる。特異なものの本質を解する選択眼や、それを受け入れる余裕、言うなれば成熟した大人の粋な感性をこれほどよく語ってくれる腕時計はそうそうない。

問い合わせ情報
オーデマ ピゲ ジャパン
TEL:03‐6830‐0000
photograph:AUDEMARS PIGUET
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