“そんなことできるの?”と感嘆するほどの不可思議さ
この数年、パルミジャーニ・フルリエが面白い。要素を極限までそぎ落とすピュアな感性と、上質感や特別感にあふれたプレミアムな価値という、一見相反しそうなファクターを高い水準で両立した時計作りを行っているからだ。腕時計を構成する要素が少なくなればなるほどデザインの幅は狭まり、その分、ディテールの仕上げや造形の均衡が問われるが、それをいとも簡単そうにやってのけてしまうのが近年のパルミジャーニ・フルリエである。こんなブランドは、この数十年を振り返ってみても、まれである。
今年発表された「トンダ PF クロノグラフ ミステリューズ」もまたそうした時計作りの流れをくむものである。最大の特徴は、作動時のみ可視化されるクロノグラフ。通常はシンプルな3針時計として時刻表示を行うが、ケースの7時半位置に設置されたプッシャーを押すと、ロジウム加工(シルバーカラー)の3本の針が12時位置にジャンプし、経過時間の計測を開始する。同時に18Kローズゴールドの2本の針が出現し、現在時刻を表示する。
再度プッシャーを押すとクロノグラフの計測が停止し、3回目のプッシュでリセット。ロジウム加工の針が時刻表示に戻り、18Kローズゴールドの針はその裏に隠れる。必要な時にだけクロノグラフの要素が姿を現し、役目を終えると再び消えるという、いわばオンデマンド式のクロノグラフである。“そんなことできるの?”という不可思議な驚きが脳内を占める一方で、針が隠れる奥ゆかしさはどこか情緒的でもある。




パルミジャーニ・フルリエは“まれなブランド”と述べたが、それはプロダクトだけを指すのではない。ブランドの創業者は、天才的な時計修復師として名を馳せたミシェル・パルミジャーニ。「500年分の時計技術が私の手の中にある」と言う。古典的な複雑時計を解体し、構造を読み解き、再び生命を与える修復プロセスの蓄積があるからこそ、機械原理を現代の腕時計へと応用することができる。
そのミシェルの技術や知識に感銘を受け、1996年のブランド立ち上げから現在に至るまでバックアップするのが、ブランドの母体であるサンド・ファミリー財団。スイス製薬大手ノバルティスの前身企業の一つ、サンド社にゆかりを持つ一族である。
ミシェルとサンド・ファミリー財団は、他社に依存しない時計製造の重要性を早くから見抜き、創業直後からマニュファクチュール化を推進。内製が最も割に合わないといわれるひげぜんまいまでグループ内で製造できる体制を確立した。その充実ぶりは、他社に部品を供給するのみならず、他社から共同開発のオファーを受けるほど。今年、創業から30年の節目を迎えたが、マニュファクチュールの格を決めるのは歴史の長さだけではないことを明快に証明してみせたのである。
というように、人、資金、体制というおおよそ高級時計製造に必要なものを創業から数十年で築き上げていることが、パルミジャーニ・フルリエの最も希有な点である。時計を選ぶ際はデザインや機能などプロダクト本位になるのは当然だが、さらに一歩踏み込んでブランドの創業者やバックグラウンドまで目を向けると見方が変わる。子細を知り、トータルに判断すれば、高級時計のトップの一角にパルミジャーニ・フルリエの名が挙がってこないだろうか。本質を見抜く選択眼を持つエグゼクティブであれば、その答えは明らかだろう。

問い合わせ情報
パルミジャーニ・フルリエ
TEL:03‐5413‐5745
photograph:PARMIGIANI FLEURIER
edit & text:d・e・w
