スイスの実業家一族を動かした、天賦の才

パルミジャーニ・フルリエが創立されたのは1996年のことだが、創立者であるミシェル・パルミジャーニの歩みはそれより約20年前に始まっていた。1970年代、クオーツショックによってスイスの機械式時計産業が大きく揺らぐなか、若きミシェルが選んだのは、歴史的な機械式の時計やオブジェを修復する仕事だった。置き時計、懐中時計、オートマタ(機械人形)など、過去の職人が残した複雑な作品と向き合い、その構造や製作者の意図を読み解いていった。

修復とは、古くなった部品を新しいものに置き直す作業ではない。作品が生まれた時代の素材や技術を理解し、オリジナルを最大限に尊重しながら、再び動く状態へ導く仕事である。ミシェルは「手を加える前に理解する」という姿勢を貫き、修復の第一人者としての名声を確立していった。

こうしたミシェルの技術と哲学に深く共鳴し、その活動を支えたのが、スイスの実業家一族によるサンド・ファミリー財団である。同財団は古くから、希少な時計や機械式オブジェを収集し、文化遺産として保存してきた。そのコレクションには、19世紀初期を中心に制作された懐中時計やオートマタ、シンギングバードなど、一般公開される機会が極めて少ない作品が含まれている。精巧な機構を内側に秘めながら、外側には彫金、エナメル、宝石装飾といった最高水準の工芸技術が注ぎ込まれている。機械であり、宝飾品であり、同時に芸術作品でもある品々だ。

ミシェルの技術に魅せられ、哲学に共感したサンド・ファミリー財団は、保有する作品の修復を彼に依頼するだけでなく、メゾンの創立をも力強くサポートし、現在も変わらずメゾンの母体であり続けている。歴史的作品を理解し、守り、その精神を次代の時計づくりへとつなげる。両者が共有した価値観が、パルミジャーニ・フルリエというマニュファクチュールの礎になっている。

過去と現代が「対話」する展覧会

このたび開催される「メカニカル ワンダーズ 2026」は、単なる回顧展ではない。テーマとなるのは、今なお脈動を続ける「生きた機械芸術」である。

会場では、サンド・ファミリー財団コレクションが誇る歴史的傑作を日本で初めて特別公開する。19世紀初期の希少な作品群が一堂に会するのは約20年ぶりだという。これらとともに展示されるのは、パルミジャーニ・フルリエの現代のタイムピースの数々。ムーブメントの構造、機構に込められた知恵、素材の扱い、人の手による仕上げなど、時代を超えて共有されてきた普遍の原則を浮かび上がらせる趣向である。

時計製造の未来は、過去への深い理解によってこそ築かれる。修復と創造を切り離すのではなく、一連の営みとして捉えるメゾンの哲学が会場全体を貫く。なお、開催地に東京が選ばれたことにも意味がある。素材を尊重し、時間をかけて技を磨き、均一さのなかではなく手仕事の痕跡に美を見いだす。そうした日本の工芸観は、パルミジャーニ・フルリエの思想とも重なって見える。

メカニカル ワンダーズ 2026

会期:2026年9月19日(土)~24日(木) ※会期中無休、会期延長の可能性あり
開館時間:10:00~19:00 ※最終日は17:00閉館
会場:21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー3
(東京都港区赤坂9‐7‐6 東京ミッドタウン ミッドタウン・ガーデン)
入場料:無料
予約優先制 ※予約にはパルミジャーニ・フルリエのLINE公式アカウントとの情報連携が必要

生命を宿したかのように動く、6つのアートピース

会場には、時計という枠を超え、音や動き、物語までも表現したアートピースが展示される。いずれも19世紀初期を中心に制作された作品で、精密な機構と彫金、エナメル、宝石装飾などの工芸技術が一体となっている。ここでは主要6点を紹介しよう。

おうぎ型表示の懐中時計

時刻を円形の文字盤ではなく、ケース上部に設けた扇形の窓で示す懐中時計。時と分を別々の表示窓に配した、端正で独創的な設計が目を引く。薄いゴールドケースの裏蓋には、精緻なギヨシェ彫りが施されている。さらに、15分単位の現在時刻を音で知らせるクオーターリピーターを搭載。視覚と聴覚の双方で時を伝える、洗練された機械式時計である。

おうぎ型表示の懐中時計
「おうぎ型表示の懐中時計」。製作者:ペラン兄弟。製作地:スイス・ヌーシャテル。製作時期:1800~1840年。素材:18Kイエローゴールド。サイズ:直径55.3mm、厚さ8.5mm。修復:シルヴァン・ヴァローニュ/パルミジャーニ・フルリエ

エチオピアの黄金かいこ

ゴールドで蚕の姿を表現した、全長約7.7cmの小さなオートマタ。11個の関節状のリングを連結し、頭部にはブラックエナメルとルビーの目があしらわれている。内部の機構を作動させると、前方と後方の節が交互に波打ち、地面をはうように進んでいく。硬質な金属に、柔らかな生き物の動きを与えた、機械的想像力に富む作品だ。

エチオピアの黄金かいこ
「エチオピアの黄金かいこ」。製作者:不明。ロンドンのアンリ・マイヤルデ、またはジュネーブのピゲ&カップ作とされる。製作時期:19世紀初期。サイズ:全長76.5mm、最大径15mm。重量:20g。来歴:旧バーナード・フランク・コレクション由来と推定

蛙のオートマタ

ゴールドとエナメルでつくられた蛙のオートマタ。体にはハーフパールが配され、ルビーの目が輝く。動き出すと、内部のハンマーが蛙の鳴き声を再現。鳴き声の合間には足を伸ばしながら、体を少しずつ前へ進める。声と動作を一つの機構で連動させ、蛙の姿を生き生きと描き出している。

蛙のオートマタ
「蛙のオートマタ」。製作者:不詳。製作時期:1805年頃。素材:エナメル仕上げのゴールド、ハーフパール、ルビー。サイズ:全長60mm、幅29mm、厚さ5mm。修復:ロマン・ウィニガー、ラウル・パジェス/パルミジャーニ・フルリエ

『香水瓶』ウォッチ

華麗な香水瓶の内部に、時計、音楽機構、オートマタを収めた装飾工芸品。ケースにはエナメル画や彫金、ギヨシェ、金箔、ハーフパールなどが惜しみなく施されている。音楽が流れると、側面に設けられた田園風景も動き出す。女性が糸車を回し、犬が水を飲み、泉の水がきらめく。高さ19cmの小さな空間の中で、一つの物語が展開される。

『香水瓶』ウォッチ
『香水瓶』ウォッチ。時計、オートマタ、ミュージカルムーブメント機能を搭載。製作者:レモン・ラミー&シー(金工)、ジョン・リッチ(機構)。製作地:スイスおよびフランス。製作時期:19世紀初期。サイズ:高さ190mm、幅66mm、奥行43mm。重量:408g。修復:クリスティー・ジレル/パルミジャーニ・フルリエ、2000年

ステッキグリップ『シンギングバード』

歩行用ステッキの持ち手として制作された、手のひらに収まるほどの機械式オブジェ。エナメル画と彫金で装飾されたゴールドケースの内部に、小鳥のオートマタが隠されている。側面のレバーを操作するとカバーが開き、小鳥が姿を現す。首や体を回し、くちばしや翼、尾羽を動かしながら、約19秒間にわたってさえずる。音と複数の動作を緻密に制御する機構が、小鳥に生命感を与えている。

ステッキグリップ『シンギングバード』
「ステッキグリップ『シンギングバード』」。製作者:ロシャ兄弟(金工師)。製作地:スイス。製作時期:19世紀初期。サイズ:高さ41mm、直径36mm。さえずり時間:19秒。来歴:ベリー社、ロンドン

ジャックマール・オートマタ懐中時計『岩を打つモーセ』

時刻表示とクオーターリピーターに加え、旧約聖書の一場面を表現したオートマタを組み込んだ懐中時計。文字盤を小さく配置し、ケースの大部分を機械仕掛けの情景に充てている。搭載されたセレクターレバーにより、時刻を音で知らせるリピーター機能と、オートマタの作動を切り替えることができる。時を表示し、音を奏で、物語を動きで見せる、複合的な機械芸術である。

ジャックマール・オートマタ懐中時計『岩を打つモーセ』
ジャックマール・オートマタ懐中時計『岩を打つモーセ』。時刻表示、クオーターリピーター、オートマタを搭載。素材:ゴールド。ムーブメントサイズ:直径60mm。刻印:「K18」、ケース製作者番号「FTD 7609」ほか
問い合わせ情報

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パルミジャーニ・フルリエ
TEL:03‐5413‐5745


photograph:© FEMS Pully, photo Renaud Sterchi
edit & text:d・e・w