ファッションディレクターの青柳光則さんに、ビジネスシーンにふさわしいエグゼクティブのスーツの着こなしを提案してもらった。2回目は、紳士の象徴dunhillのスーツを取り上げる。

上司の風格をさりげなく伝えられるブリティッシュスーツ

着任時はもちろん、自分自身が担当を外れる場合にもメールや電話で挨拶を済ませるのではなく足を運んで直接言葉を交わしたい。去りゆく側とはいえ、世間は意外と狭いもの。先方担当者とまた別のプロジェクトや事業部で顔を合わせる可能性もある。ゆえに去り際とて疎かにはできないのだ。訪問時には、引継ぎの新任者を連れての紹介がてらというのがスマートな仕事のこなし方だろう。

引き継ぎの若手を伴って客先を訪問する際、自分は上役としての姿で訪れたい。そのためには、端正で格を感じさせるスーツを着ていくべきだ。自分より若い後輩のスーツより、ワンランク上のスーツは必須だろう。流行りの肩パッドの薄いイタリア式のスーツより、ショルダーラインがしっかりと構築的なフォルムを描く英国式スーツならば、その役割を十分に果たしてくれる。

ダンヒル(dunhill)のスーツには、イタリアスーツとはひと味違った格式とエレガンスが漂う。フィッティングは、ベルグレイヴィアフィット。今日のダンヒルを象徴するモデルだ。肩から胸にかけて描かれる「イングリッシュドレープ」と呼ばれる雄々しいシルエットが特徴的で、ウェストを絞り、裾へかけて流れるようにシャープなラインも力強く凛々しいスタイルを描き出す。

ノーブルさを引き立てるのは、滑らかで繊細なブロード地の白シャツ。ダブルカフスのタイプを選ぶのも上質感をアピールするポイントになる。スーツとトーンを合わせたグレーのタイなら、モダンな印象も醸せて、そこにスマートで都会的なビジネスマンの風格が滲む。若手には到底着こなせない品格と貫禄が宿るスーツこそ、ダンヒルならではの魅力なのだ。

紳士の国の品格と風格が宿るスーツ

フルキャンバス仕立ての構築的なフォルムは英国のスーツならでは。英国ブランドのスーツが上役の威厳を示すためにも適していることを実感できる。スーツ38万円、シャツ3万1000円、タイ2万9000円、チーフ1万2000円、カフリンクス3万7000円(以上すべてダンヒル)

グレーのスーツにグレーのタイ。同じトーンで組み合わせることで、モダンな印象も高まる。共地ならモード系メゾンのデザイナーズスーツのようにも見えるだろうが、ビジネスにモードの要素はシーンを選ぶので、あくまでクラシックなブランドでコーディネートするのがいい。ここでのスーツは細縞のカラードストライプ、タイはヘリンボーンの織りストライプと差をつけることで、クラシックな雰囲気を演出することができている。

グレー・オン・グレーのカラーコーディネートが都会派クラシックを表現

モヘアを混紡したスーツ地は、シャリッとドライなタッチで春夏らしい風合いが漂う。アンゴラ山羊から採取されるモヘアは繊維にシルクのような光沢があり、しかも腰が強く、硬くて張りもある素材。質の良いウールと混紡することで高級感のある見た目のままで、通気性に優れるため春夏の清涼なスーツ生地として用いられる。汗だくで客先を訪れては相手も不快。涼しげでキリッとスマートに振る舞うためにも、季節に合わせた素材選びはビジネススーツの基本だ。

シャリッと硬いモヘア混素材なら春夏も清涼に着られる

ダブルカフスのシャツは、一般的なシングルカフのシャツよりもパーティなど華やかな席に向くとされる。フォーマルな印象もあるため、ビジネススタイルにいつもと違った印象を加えるのにも適しているのだ。気をつけなければならないのはカフリンクス、これはシンプルなものほど昼のビジネス用、オニキスなどの貴石を使っているものは夜の席用とされる。

盛装を意識したダブルカフスのシャツ。カフリンクスは昼間用のものを意識して

ファッションディレクター青柳光則からワンポイントアドバイス
「英国ブランドのスーツは、イタリアブランドのそれとは見た目が異なります。最近のイタリアブランドはジャケットの着丈が短くて、仕立てに使う芯地も薄く、全体に丸みを帯びたシルエットのものが主流です。英国ブランドのスーツも少しずつ進化してはいますが、仕立てもシルエットもトレンドに左右されない伝統的でシャープなフォルムを守り続けています。特にダンヒルには凛々しく硬派でありながら、モダンのエッセンスも感じられるスーツがあります。創業から今日まで紳士服一筋でやってきた自信のほどが滲みますね」

styling:Mitsunori Aoyagi(Hamish)
photograph:Ryohei Watanabe
hair & make:Akira Nishihira
model:Kenji Kureyama(BARK IN STYLE)
edit & text:Yasuyuki Ikeda(zeroyon)