ファッションディレクターの青柳光則さんに、ビジネスシーンにふさわしいエグゼクティブのスーツの着こなしを提案してもらう当特集。8回目は、洗練と伝統を兼ね備えるPaul Stuartのスーツを取り上げる。

男の正装は、つねにスリーピースと心得たい

フォーマルなパーティでは、会場の雰囲気になじむ服装が求められる。パーティは主賓を引き立てる場。招かれる側は、華やかさがありつつも会の目的や集まる人々のファッションスタイルにも配慮したものでなくてはならない。

ドレスコードの記載があれば、それを守るのは当たり前。「平服でお越し下さい」の平服とはスーツのことで、カジュアルな普段着で出かけてはいけない。さらにスーツの正式なスタイルはスリーピース。つまりは、例えば話題のレストランで開かれるパーティへ「平服でお越し下さい」とされた招待状を受け取ったなら、モダンなスリーピーススーツで出席するのが正解なのだ。

ポール・スチュアートの新作「ヨークモデル」のスリーピースは、従来よりもシャープなシルエットが、現代的なNYのパワースーツを思わせるモダンな印象を醸している。ネイビー生地には、6色のわたをオリジナルレシピで紡いだ糸を使用しており、一見すると単色のようだが、よく見れば色の深みと艶がじつに美しいことに気づく。柔軟なオーストラリアメリノと硬めの英国羊毛を混紡しているため生地に適度なハリがあり、仕立て映えするうえ、シーズン問わず着用できる。いつもオフィスで着用している仕事着然としたネイビースーツとはひと味違う、格上のネイビースーツと納得が行くだろう。

さらにいえば、仕事中のことを考えてもスリーピースはとても実用的だ。ジャケットを脱いでデスクワークに勤しむ際、しわが寄って、汗染みの浮くシャツ姿では周囲への配慮に欠ける。ベストを一枚着ているだけで、スマートなワーキングスタイルが演出できるからだ。また、これからベストを重ねるのが暑くてつらい季節になったのならツーピースで着てもいいし、ジャケットを脱いでベスト姿で出勤してもいいだろう。このように、スーツはつねにスリーピースで用意することで、ぐっと着こなしの幅が広がるものだ。

アメリカンブランドであるポール・スチュアートはNYのマンハッタンに創業した当初から、英国サヴィル・ロウの伝統的な服装にアメリカ式の解釈を加えることを主眼としてきた。ときに英国、ときにイタリア、フランスなどファッション先進国の装いを巧みに取り入れることで、東海岸の富裕層に支持されてきたのである。

ヨーロッパの伝統を集約したNYスタイルのスリーピース

ミッドナイトネイビーと呼ばれる深みある濃紺。夜間の照明の下では、黒い生地よりも深みのある色に見えるため、夜のフォーマルウェアとして使われることも少なくない。スーツ8万9000円、ベスト3万円、シャツ2万3000円、ネクタイ1万5000円、チーフ6500円(以上すべてポール・スチュアート)

フォーマルな席にはカラーシャツより白いシャツがふさわしいだろう。ネクタイの色も慶事では白が一般的だが、近年はシルバーも定着した。今日はレストランパーティという気のおけない場だ。そこでシルバーをベースにしたグレンチェックのネクタイを選んでみた。

このスーツには共地のベストがオプションとして用意されている。購入時は必ずベストをそろえておきたい。ベスト一着あるだけで、ジャケットを脱いだときのスタイルは格段にレベルアップするからだ。どことなく上品に見えて、好感度も高まるだろう。ところでベストの一番下のボタンは留めないのが着こなしのルール。構造上、そのように仕立てられているので心得ておきたい。

オフィスではジャケットを脱いだベスト姿でも品格を十分保つことができる

一見、単色のダークネイビーも、拡大してみると糸の一本一本が複雑な色を備えていることが分かる。これは紺無地の生地を織るにあたって、使用する糸に色味の違う複数の青色を混紡しているから。混色の糸を使った紺地は、さまざまなトーンの青色のネクタイやポケットチーフが似合うようになるという。さらに光の加減によっても単色の糸を使った生地よりも複雑な発色となり高級感を増すのである。

一見単色の紺無地だが、光の加減で複雑な色味が浮き上がる
紺無地の生地を織るために、独自のレシピに従って6色に染め分けられたわたを混紡糸にしている。

ファッションディレクター青柳光則からワンポイントアドバイス
「ポール・スチュアートは元々NYのマンハッタンに暮らすアッパークラスの人々のために英国紳士の端正な装いを提供してきた名店です。いまはスペシャリティストアというのですが、本来は服飾専門の百貨店のようなものだったと思います。だからブランド名は自社ネームですが、じつは錚々たるヨーロッパのファクトリーに生産を依頼してきたという実績があり、そのスタイルはアメリカントラッドとはちょっと違う。どちらかというとヨーロッパの上流階級に近く、エレガントで品格も高いコレクションです。日本で展開するポール・スチュアートにも、そんなヨーロピアンなセンスが表れているように思います」

styling:Mitsunori Aoyagi(Hamish)
photograph:Ryohei Watanabe
hair & make:Akira Nishihira
model:Kenji Kureyama(BARK IN STYLE)
edit & text:Yasuyuki Ikeda(zeroyon)