ファッションディレクターの青柳光則さんに、ビジネスシーンにふさわしいエグゼクティブのスーツの着こなしを提案してもらう当特集。9回目は、イタリアクラシコにモダンな感性を巧みに融合させたイザイアのスーツを取り上げる。
高い志を持つ仲間たちと深く交わるためのスーツを
異業種の人たちとの会食は、日頃のストレスを発散する飲みの席でも、業界内の秘密を探り出す場でもない。次なるビジネスプランを練るための貴重な情報交換の場として、互いの得意分野を持ち寄り、腹を割って話しをすることで、互いを高めあう有意義な集まりとしたいものだ。
休日ではあってもそういう場にカジュアルな普段着で顔を出しては「業績きびしいの?」と余計な心配をされかねない。やはり、きちんとした身なりで出かけたい。いや、むしろ快活な印象を与え、かつ信頼感を得るためにも、スマートで、ほどよく遊び心あるスーツで出向いてはいかがだろう。
ISAIA(イザイア)は、ナポリきってのファクトリーブランド。ナポリのブランドには趣味性が強く、遊び着のようなコレクションが少なくない。しかし、その点イザイアにはビジネスの場にもふさわしいスマートエレガンスをたたえたスーツが用意されている。それがここで着用している「グレゴリー」というモデルだ。
「グレゴリー」は、イザイアの定番として長く愛されているモデル。肩のラインが袖山に向かって曲線を描くコンケーブドショルダーが男らしさを描き出すのが特徴だ。シルエットは細身でスマート。さらにはシーズン毎にテーマを掲げることでトレンド性を打ち出すなど、定番モデルでありながらも積極的に“攻める”のがイザイアらしい。つねにセンスもビジョンもアップデートさせているビジネスエグゼクティブにこそ相応しい一着といえるだろう。
ラペルに取り付けられている赤珊瑚モチーフのラペルピンは、イザイア社のロゴマークだが、ナポリ人にとって赤珊瑚はラッキーチャームとして知られている幸運の証。ビジネスシーンで着るなら外しても構わないが、遊び心として会食の席に付けていけば、知らない人には「それって何?」と話しの種にもなるはずだ。新たな人脈を広げる、コミュニケーションツールとして活用するのもいいだろう。
柄とディテールに、スーツスタイルの粋が宿る
柄物のスーツを着るときに悩むのがVゾーンメイク。日本人はストライプのタイを好む傾向にあるが、ときにストライプは若見えすることもある。そこで選ぶべきは小紋柄のネクタイだ。柄物、無地、どちらのスーツにも合わせられるのはもちろん、グローバルなビジネスシーンでは「ビジネススタイルには小紋柄のネクタイ」がスタンダードになっている。
ジャケットのポケットは上下に2つ。上部はチェンジポケットと呼ばれ、ロンドンの仕立て服の聖地として知られるサヴィルロウ発祥のデザインディテールだ。チェンジ=小銭を入れるためのポケットだが、実際に使うとポケットがふくれて不格好になるので、あくまで装飾と考えてほしい。かつてチェンジポケットが付いていることはサヴィルロウで仕立てた服であることを示し、またそこで仕立てるだけの財力を持つという社会的なステイタスを表すものであった。いまではデザインの一部だが、大人の遊び心として取り入れることで、分かる人には“粋”が通じるだろう。
「グレンチェック」とも呼ばれるグレナカートチェックは、スコットランド地方に伝わる伝統的な柄。英国王室の人々がオフのシーンで好んで着ることから、知的な上流階級の日常着として通じる柄でもある。そのため紳士の日常着として用いるのに適しており、ビジネスシーンはもちろん、オフのシーンでも品格と礼節あるスタイルを作ることができるものだ。これまでストライプ以外の柄物スーツを着たことない人も、グレンチェックなら品格を損なうこともないだろう。
ファッションディレクター青柳光則からワンポイントアドバイス
「イザイアはナポリに数あるブランドのなかでも、ビジネスに着やすいスーツがそろっているブランドです。それでいて、きちんとトレンドや遊び心を取り入れたものになっている。たとえば今季のラインナップは、2017年ブランド創立60周年を迎えた事を受け、創立当時ナポリ近郊で人気のあった生地感や色柄を再現している。このグレンチェックも本来の明瞭な白と黒の2色ではなく、少し褐色がかったニュアンスある色味となっています。このあたりの妙が男の粋につながるのではないでしょうか」
styling:Mitsunori Aoyagi(Hamish)
photograph:Ryohei Watanabe
hair & make:Akira Nishihira
model:Kenji Kureyama(BARK IN STYLE)
edit & text:Yasuyuki Ikeda(zeroyon)