スーツスタイルのお手本は
――子どもの頃にメンズファッション誌に魅せられ、以来自身のファッションの知識やセンスを磨き、「卓越したスタイリストでもある」と評される綿谷さんですが、お手本にしてきたスーツスタイルはありますか?
【綿谷】1950~60年代のハリウッド映画の俳優さんですね。彼らは何をするにしても、みんなスーツスタイルでした。『北北西に進路を取れ』の主演俳優ケーリー・グラントなんて、スーツを着たままで殴り合いをしていて、それが本当に格好よかった。『ローマの休日』のグレゴリー・ペックもそうです。どんなシーンでもスーツスタイルで、その姿がサマになっていた。彼らはずっと憧れでしたし、僕のスーツスタイルの原点になっています。
――それでいうと、時代は下がりますが、映画『007』の主人公ジェームス・ボンドも、ほとんどスーツスタイルで通していますね。
【綿谷】10年ほど前からパーソナルオーダースーツ「麻布テーラー」の広告イラストを手がけていますが、あそこで描いているのはジェームス・ボンドの世界観をモチーフにしています。スーツスタイルの男性に、スポーツカーや由緒ある旅館とイギリスの古城といったような舞台設定で、どこかに女性の気配を漂わせていたりする。それは、現代でも成功した男性が憧れる一つ姿ではないでしょうか。
――現代でステキなスーツの着こなしをしていると思う人は?
【綿谷】オバマ前アメリカ大統領ですね。座るときにはスーツの上着のカタチが崩れないようにボタンを外し、立つときにまたボタンを留めるものですが、オバマさんは座る時に、スーツのボタンを片手でスッと外し、ボタンを留めるのも片手でさりげない。脚は前後にずらして座っている。こういう一連の所作がとてもエレガント、女性がうっとりする仕草で、私の妻も素敵ねえ、と言っていました。高級なスーツを品良く見せるのも、着慣れた感じに見せるのも、こうした「立ち居振る舞い」次第です。それがエレガントかどうかで、印象は大きく変わってきます。
――所作のほかにも気をつけるべきことはありますか
【綿谷】その服にふさわしいTPOを意識することでしょうか。仕事柄、洋服好きの方から食事やパーティの誘いを受けることがあります。スーツにネクタイ、ピカピカの靴でキメた方が勢揃いしているのに、そこが居酒屋然としたお店だった、ということがありました。こういうところで歓談するなら、いくらオシャレをしてきても意味がないじゃないか、と思いましたね。ピシッとスーツと靴でキメた時には、帝国ホテルのオールドインペリアルバーあたりに足を運んでみてください。ホテルマンの対応や周りの人の視線も全然違ってきますから。TPOを考えて出かけてみると、とても良い社会勉強ができると思います。
――上手な着こなしをしているエグセクティブは、ほかにいますか?
【綿谷】これまた政治家になりますが、カナダのトルドー首相ですね。キメキメではないファッションを心がけているのか、スーツからちょっと派手な靴下をのぞかせているところなんて心憎い。自分の外見の良さを知っていて、愛嬌ある雰囲気を演出している感じがとてもオシャレだなと思います。