自分のスタイルを貫くコツとは

自宅のアトリエで photograph:shinzou ota

――メンズファッションイラストレーターとして40年間続けてこられた。その結果、お手本にしていたアメリカからも尊敬されるほどに評価を受けていますが、長年に渡って自分のスタイルを貫くコツがあれば教えてください。

【綿谷】「マイノリティであることを恐れない」ということでしょうか。仕事でもファッションでも趣味にしても、少数派であることを何ら気にやむ必要はないと思っています。イラストレーションの仕事を続けながら、そのときどきで熱中してきた趣味があります。いまはオーセンティックなバー巡り、そしてバーでのゆったりとした時間を満喫するのにちょうどいいパイプや葉巻にはまっています。その前は狩り、射撃です。猟銃を担いで、猟犬と連れだって、雉などを撃ち落とし、それを自分で捌いて料理したりしていました。作家の開高健さん気取りで。振り返ってみると、仲間とつるむよりも、一人で楽しむ趣味がほとんどでしたね。

射撃にのめり込んでいた時もあった

――紳士の趣味を嗜んできた人生、という感がしますね。

【綿谷】一人で楽しむ趣味は、孤独じゃないですか、と言われることがあるんです。バーのカウンターで一人で飲んでいると、どなたかが話かけてきてくれて、そこから縁ができたり、バーの主人を通して人を紹介されたり。孤独どころか人脈や世界が広がっていくんです。そんなわけで、最近はもっぱらひとり飲みを楽しんでいます。会社勤めの経験をしたことがないので、ビジネスマンの心中はよくわかりませんが、いずれは組織を離れ、同僚とも疎遠になるときがきます。そんなときに、一人で楽しめる趣味があるといいですよ。

<プロフィール>

綿谷寛/Hiroshi Watatani
1957年生まれ。1979年に創刊したばかりの『POPEYE』でイラストデビュー。50年代のアメリカのイラスト黄金期を彷彿させる正統的ファッションイラストと、コミカルで、本人曰く「バカタッチ」と呼ぶマンガ風のイラストを使い分ける日本を代表するメンズファッションイラストレーター。

text:miho yanagisawa