基礎知識4 どのようにテーラーを選ぶべきか?

各テーラーによって得意とするスタイルは異なる。頼めば違うスタイルを作ってくれるところもあるが、得意なスタイルを頼んだ方が完成度が高いものができる。

大別するとスタイルは構築的な英国式(ブリティッシュ)と柔らかさと軽さが特徴のイタリア式(イタリアン)に分かれるが、最近は両方を折衷したスタイルも多い。まず自分が好きなのはどのスタイルなのかを見極め、雑誌などのメディア、SNSやテーラーのホームページ等であらかじめハウススタイルを確認してから選ぶと失敗が少ないだろう。

有名店だからといって自分にとって最上のテーラーとは限らない。一方で老舗や有名店は顧客の数も多いことから、こうした店の職人は豊富な経験を持ち、大きな失敗を犯す確率は少なくなる。最終的には自分が信頼できるプロフェッショナルがいる店が最高のテーラーということになるだろう。

基礎知識5 誰でも注文できるのだろうか?

現在、ほとんどのテーラーでは一見の客も受けつけてくれる。誰でも注文できるわけだが、紹介者がいた方がテーラーとの信頼関係は築きやすい。

紹介者がいない場合は、最低でもアポイントを取って店側の都合を確認してから出かけることを勧める。海外でオーダーする際は自分の作りたいスタイルを伝えるため、意思の疎通ができる最低限の語学力は必要だ。

英国のビスポークの世界では型紙をつくるヘッドカッターがスーツ作りにおいて最も重要な鍵を握るとされている。写真右の人物はヘッドカッターにして自身の店を経営するリチャード・アンダーソン。©Edward Lakeman

基礎知識6 どれくらいの時間と費用がかかるのか?

通常の流れは採寸、仮縫い2回を経て、完成となり、テーラーによって仮縫いは1回のところ、納得行くまでなんども仮縫いを行うところもある。どの程度の頻度で仮縫いに行けるかによっても完成するまでの時間は異なるが、平均すると6カ月程度となる。一度、気に入った型紙とスタイルができれば、その型紙を使用できるので製作期間は短くなる。期間に関しては、頼めばそれまでに作ってくれるテーラーも多いので交渉次第だ。

価格に関してはどのファブリックを選ぶのか、店の規模、立地によっても大きく変わってくる。例えばフランスワインがニューワールドワインに比べて価格帯が高めなことと同様で、作られる場所の地代と労働単価が製品の価格に反映されている。飽くまで目安だが、日本では平均して30万円代~50万円代、ロンドンのサヴィル・ロウでは平均5,000ポンド、ミラノ、パリでは平均6,000ユーロ、ナポリでは平均2,500ユーロとなる(現地価格)。

「いちど体験したら、もう既製服には戻れない」というのがビスポークの世界。ワードローブの投資として、ぜひ、信頼できる熟練の職人の手から作られた「本当のビスポーク・スーツ」を体験してみてほしい。

次回からは、ヨーロッパからアジアまで世界のビスポーク・テーラーを厳選、絶対に外せない老舗からアジアのライジングスターまで、今知るべきビスポークの世界を1店ずつ紹介していく。

長谷川喜美/Yoshimi Hasegawa
ジャーナリスト。イギリスを中心にヨーロッパの魅力を文化の視点から紹介。メンズファッションに関する記事を、雑誌を中心に執筆。著書に『サヴィル・ロウ』『ハリスツィードとアランセーター』『ビスポーク・スタイル』『サルトリア・イタリアーナ』など。

ビスポーク・スーツについて詳しく知るには?
スーツの二大潮流、英国とイタリアでの取材をもとに構成した長谷川喜美さんの著書3冊が、ビスポーク・スーツのことを知るうえでとても参考になります。

『サヴィル・ロウ』

「紳士服の聖地」と呼ばれる英国はロンドンのサヴィル・ロウで、世界最高レベルのビスポーク・スーツはどう生まれるのか。英国王室御用達の老舗から新進気鋭のテーラーまでを紹介した書。
長谷川喜美著 Edward Lakeman撮影 万来舎刊 3,400円(税別)

『ビスポーク・スタイル』
スーツ、靴、シャツなど世界のメンズスタイルを築いたロンドンの名店を取材、クラフツマンシップを通してビスピークの真髄を紹介した書。日本語・英語完全対訳。
長谷川喜美著 Edward Lakeman撮影 万来舎刊 4,500円(税別)

『サルトリア・イタリアーナ』
手縫いのスーツの完成度においては、英国よりも卓越しているとされるイタリアン・テーラリング。それを支える新旧の名店サルトリア27店を紹介した書。
長谷川喜美著 Luke Carby撮影 万来舎刊 4,000円(税別)