――社長就任からこれまで、「ブランドを磨き、ブランドで挑む」という方針を掲げて、製品ブランドの価値向上に取り組んできました。その狙いを教えてください。

伝統あるブランドの本質価値を大切にしていくだけでなく、いかに今の時代にマッチさせて新たな価値を打ち出していくかにも挑んでいるところです。三ツ矢サイダー、ウィルキンソンタンサン、カルピスなど、日本産の“一世紀ブランド”の数々をはじめ、当社は多様な飲料ブランドを持っています。その一つひとつを磨き上げることによって、ビジネスチャンスは広がると考えています。

──前編では、社長自ら店頭イベントに出席して製品を配っているとうかがいました。店頭イベントを重視されているのですか。

3月28日の三ツ矢の日の前の週末には、スーパーマーケットなどの店頭をお借りして、必ず三ツ矢サイダーの試飲会を開催します。この日は私も、緑のハッピに緑のネクタイといういでたちで店頭に立ち、お客様に三ツ矢サイダーを配ります。同様に、カルピスが誕生した7月7日の前の週末には、やはり店頭に出てお客様にカルピスを配ります。私たちの手でお客様に製品を配り、実際に味わってもらえる店頭イベントは、とても貴重な機会であると考えています。

──知名度が高い三ツ矢サイダー、カルピスなどのブランドでも、お客様に直接、商品を配布することに重要な意味があるのでしょうか。

とても大事なことです。自戒を込めて言えば、私たち作り手は、お客様に自分たちのブランドのことや会社のことをご理解いただいていると錯覚しがちです。しかし実際は、私たちが考える製品ブランド価値を、よく知っている方もいれば、知らないという方もいます。いろいろなお客様がいらっしゃるということです。そこで、お客様とのコミュニケーションが重要になります。マスコミュニケーションという方法もありますが、社員がお客様に相対して、会話を交わしながら製品を味わっていただくということも、また重要です。お伝えしたいことがしっかりと伝わるからです。

──お客様の声を聞けるチャンスということですね。

それが一つです。もう一つ、製品をお配りすると、お客様は皆、笑顔で飲んでくれます。「いやあ、おいしいね」と言って、お客様が笑顔を見せてくれるその瞬間は、本当に社員冥利に尽きます。そのとき社員は、「自分たちの仕事は、人に喜んでもらえる仕事なのだ」と実感できます。メーカーがお客様に対し、一方的にブランド価値を押し付けても何も生まれません。製品の作り手とお客様が価値観を共有することが重要であり、店頭イベントは、その絶好のチャンスなのです。

白地に白い水玉のチーフは、カルピスブランドをイメージさせるモノを購入したという

──「健康」をテーマにした活動も積極的に展開しています。

2018年1月に、アサヒ飲料のビジョンを策定しました。社会と共有する価値と財務的価値の両輪で回していくために5つの重点領域を設定しましたが、その中で一番大切なのが「健康」です。

「自分も会社も世の中も健康に」というテーマでスタートした「アサヒ飲料 健康チャレンジ」も今年3年目を迎えます。その一環として、スポーツ庁が実施している「ファン+ウォーク」に参加して以来、当社ではスニーカー通勤と執務中のスニーカー着用を認めています。

革靴からスニーカーに履き替えて、日常的に体を動かし、健康を増進しようというわけです。「通勤は、ひと駅分歩くようにしよう」「通勤中も階段を使おう」と言って、社員の皆に実践を呼びかけました。

──オフィスでもスニーカースタイルで仕事しているのですね。

正直に申し上げると、最初はスーツにスニーカーというスタイルに違和感がありました。しかし、社員が皆で率先してスニーカーにピッタリのスタイルを考えてくれるなど、組織をあげて活動の定着に努めてくれたおかげで違和感はなくなりました。今ではすっかり、社員のスニーカースタイルが社内に定着しています。

活動が浸透したことで、会社が元気になったような気がします。社員が健康になるということは、やはり会社の活力につながるのでしょう。今後の会社の成長を考えたとき、社員が健康であることは必須条件になります。その大事な部分に社員皆が率先して取り組んでくれているのはうれしいことです。

──ご自身も、社内でスニーカーを着用して運動しているのですか。

もちろんです。オフィスの中では階段を使います。エレベーターはできる限り使いません。また、昼休みに時間があれば、隅田川沿いをウォーキングしています。その後、1階から11階まで階段で上ってくると、かなりの運動になりますし、何より気分転換になります。一日社内にいるよりも断然、気分がいいので、できるだけウォーキングにでかけるようにしています。

──今後の取り組みについて教えてください。

ブランド価値向上に引き続き取り組みます。特に、当社の製品にはカテゴリーNo.1がまだまだ少ないので、これをしっかり作っていきたいと思います。健康価値の面でも、お客様の健康づくりに寄与する製品を、もっと開発していくつもりです。どうやってお客様に受け入れてもらえる新製品を生み出していくかが課題です。そこに力を注いでいきます。

──目標を達成していくため、組織に対してはどのように働きかけていきますか。

事業活動のベースとなるのは、やはり社員の活力です。同時に、組織のトップに立つ社長の活力も重要です。ですから第一に、私と社員皆の健康を高め、組織を活性化していきたいと思います。それに加え、社員皆が自分たちとお客様の両方の視点で市場を見つめることが大切だと考えています。それができたなら、いくつもの事業課題が解決し、製品ブランド価値向上の観点からもステップアップできるはずです。私も、自ら先頭に立って引っ張っていくつもりです。

愛用の逸品~グッチのボストンバッグ

社長に就任したとき、自分へのごほうびとして購入しました。出しゃばらないシンプルなデザインが、ビジネスシーンにマッチします。開口部が広く、パッと開けてさっと入れられる実用性の高さも気に入っています。地方出張の際はいつも、このバッグを携えています。容量も十分で、一泊二日の出張なら荷物でパンパンになることはありません。孫へのお土産を入れてちょうどいいくらいです。

岸上克彦/Katsuhiko Kishigami
アサヒ飲料代表取締役社長
1954年生まれ。立教大学経済学部を卒業。76年にカルピス食品工業(現アサヒ飲料)入社。2008年に常務執行役員。13年にアサヒ飲料常務取締役、14年に専務取締役。15年3月に代表取締役社長に就任。

text:Top Communication
photograph:Sadato Ishiduka
hair & make:RINO