第五回「夏に穿くパンツ問題」
「夏は涼しげな色で爽やかに魅せて」
【K】暑い!!
【M】来て早々なぁに? そのしかめっ面。ラグジュアリーホテルには似つかわしくないわよ(笑)
【K】ごめんなさい。駅から歩いたら思ったより遠くて。汗が引くまでロビーで休んでもいい? こんな汗だく状態で打ち合わせには入れないな。
【A】お願いだからレストランでお水をガブ飲みしないでね(笑)
【K】しません!(笑)だけど、さすが5つ星ホテルのロビーね。装いをわきまえている男性が多いこと。
【M】そうね、クールビズが浸透してきたとはいえ、ジャケットを着用しなければ礼を欠いて恥をかいてしまうシチュエーションがあるわ。高級ホテルのレストランは大概ドレスコードがあるしね。ある程度のきちんと感は必要。
【A】だけど、男性は見事なくらい夏でも黒やネイビー、グレーのコーディネートがほとんどね。日中なのに。
【K】今は暑苦しくて見たくない。もうちょっと体が冷えてから。
【A】ね、見て。あそこの白パンツの男性、目立つね。紺のジャケットに、白いYシャツの人。少しお腹が出ていてもカッコよく見えるなんて、まるでイタリアーノ。
【K】本当だ、爽やか。ネクタイの代わりにポケットチーフを入れているなんてエレガント。あそこだけ涼風が吹いている。地味色のコーディネートが多い中だと、余計に目立つね。夏はみんな白パンツを穿けばいいのに(笑)
【M】男性が白パンツを選ぶのはなかなか難しいのかもしれないね。あの通り目立ってしまうもの。それにデニムの話をしたときにも言ったけど、体型が気になる人は膨張色を敬遠するわ。その点ダークカラーは引き締め効果があるから、つい手に取ってしまうのもわかる。それに悪目立ちしない安心色なのよ。
【A】じゃ逆に言えば、白パンツを穿く人は自分に自信がある人なのかしら。
【M】実際に自信があるなしに関わらず、そう見えるのは確かね。現にあの人、ちょっと周りの人とは違うオーラがあるじゃない。
【K】安心を優先して、似たようなクールビズスタイルで個性を埋没させるより、ずっとスマートで素敵よね。
【M】あの人が白パンツを穿いてもスマートに見えるのは、センタープレスが入ったパンツのおかげよ。縦のラインが強調される分、脚を細く長く見せてくれるから。その上、膝下から裾にかけて細くなっているでしょ。パンツのシルエットも完璧。
【A】そうね、全体的に逆三角形になっているシルエットもトレンドを押さえているわね。決して細くはないのにすっきりして見えるわ。
【M】お腹が気になる人は、股上が浅めのパンツを選ぶのが正解なの。お腹の下にウエストラインがくるから、サイズを選ぶときにお腹に合わせる必要がないじゃない? もしあの人がお腹を包み隠すように股上深めのパンツを選んでいたら、1~2サイズは大きくなっているはず。それだとタックが入っても太ももがゆるゆるになってしまうしね。逆に太ももがパツパツになるくらいなら、1サイズ上げた方がいいんだけど。
【K】大きなお腹を基準にサイズを選べば、シルエットが合わなくなるものね。いわれてみれば、あの人は細身のパンツをジャストサイズで穿いているわ。
【M】あと、白パンツの場合、透けない生地を選ぶのも結構重要。デニムではなく、安いコットンパンツだと絶対透けるからね。柄モノの下着なんか透けようもんなら、「さようなら~」ってもう口聞かない。
【A】やだ(笑)。下着が透けて見えるなんて問題外よ。
好感度UPが簡単に狙えるパンツとは
【M】さらに夏のコーディネートの上級者を見つけたわ。ベルデスクにいる薄いブルーのパンツにネイビーのポロシャツを着た人。シルバーのリモワのスーツケースがコーディネートの一部になっている。
【K】本当だ! さりげないのに涼やかでとってもカッコいい。白のスニーカーを合わせているのもお洒落ね。間違いなく、彼が今日のベストドレッサー賞だわ。あのコーディネート、女性はみんな好きだろうな。
【A】あのパンツの色、品の良い絶妙な中間色ね。ショップに並んでいると手を出しにくい色なんだろうけど、実は意外と合わせ易そう。ネイビーと合わせただけであんなにお洒落に見えるなんて。
【M】あのパンツの色が、グレーだったら目立たない無難なコーディネ―トになっていたかもね。色選びによって、ぐっと周りと差をつけられるのだから、是非取り入れてほしいわ。もちろん、シルエットや素材を吟味して選ぶことが前提だけど。夜のパーティなどではやはりビジネスマンとしての格式を保つためにはグレーやネイビーのパンツがいいと思うけど、日中は軽やかにコットンパンツに挑戦してほしいわよね。
【A】ビビットカラーのパンツは? 赤や黄色やグリーン。
【K】私の好みでいうと大人は無しだなぁ。それが似合うのはアーティスト系の人とか……似合う人は限られていると思う。そうそう! この前、キャンプに行った帰りにサービスエリアでコーヒーを飲んでいたら、目の前をピンクのパンツを穿いた初老の男性が横切ったの。
【M】ピンク!?
【K】薄いサーモンピンク。とってもエレガントで若々しく見えたの。そのオーラに一緒にいた友達と目が離せなくなって「大人の魅力ってこういうことをいうんだ」とか「別荘で週末を過ごしてきた大金持ちに違いない」とか、見えなくなるまでずっと言ってた。
【A】やだ、ショッキングピンクを想像しちゃったじゃない。薄いピンクね、それは意外と品良く着られるのよね。でも合わせるものが難しそう。
【M】そう、ピンクのコーディネートは難しいわね。初心者なら白シャツが一番かな。もう少し際立たせるなら、同じ明るさのグレーやカーキなんかでもいいわね。もちろんブラウン系もあり。同じような明るさがいいと思う。
【A】なるほど。ちょっと難しそうだけど、チャレンジのしがいはあるわね。
【K】年齢を重ねると、若い頃に似合っていた色が今も似合うとは限らないのよね。だから、既成概念を捨てて、頭をちょっと柔らかくすれば、意外と簡単に夏でもお洒落を楽しめるものよ。そろそろ時間。マンウォッチングはこの辺にして打ち合わせしましょうか。
【今回ご協力いただいた方】
長身でクールな印象の山崎さん。仕立てのいいスーツを美しく着こなした立ち姿が印象的でした。
【男の身だしなみ向上委員会 by re*colabo】
今の時代、仕事をする上でどれだけ女性の心を掴むかというのは大きなアドバンテージ。そこで、男性の身だしなみを女性たちは実際にどうみているのかを、女性ファッションライターの目線から本音で語ります。身に付けるものは、本人のイメージを左右する重要なファクターであり、気付いていなかったことを改善することにより、改めて身だしなみを整える一歩になれば嬉しく思います。
re*colabo
女性誌出身のクリエイティブ&ライターチーム。これまでに光文社「STORY」、講談社「フォルツァスタイル」など数々の媒体や、書籍で執筆。また、航空会社のオリジナル商品を手掛けるなど、女性ならではの視点で多くのヒット商品を生み出している。その他、女性の心を鋭く分析するマーケティング調査が人気であり、大手化粧品会社ほか、さまざまな企業から依頼を受けている。
マリ(中央)
re*colabo代表。アパレル&高級宝飾ブランド出身のファション系ライター。「大人だからできる」内面重視のシックなコンサバを推奨。内面を映すスタイリングに定評あり。
クミ(右)
元バンカーの生真面目ライター。ファション、グルメ、トラベルなど多岐に渡り執筆。マナーやルールを重んじるre*colaboの番頭で、シンプルスタイル好き。
アキ(左)
主に人物取材を中心に活動。10代半ばから20代後半まで、フランスとアメリカへ留学。結婚を機に夫の転勤に伴い、アメリカにて駐在妻を経験。帰国後ライターに。
Photo:Ayako Nakamura
text:re*colabo