ブランドの生き字引が語るニューノーマル・スタイル
1818年にニューヨーク市に1号店をオープンして以来、アメリカントラディショナルスタイルを200年以上にわたり牽引してきたのがブルックス ブラザーズである。その日本での旗艦店となるのが、2020年9月にオープンした「ブルックス ブラザーズ 表参道」。石造りの重厚な印象だった青山店とはうってかわって、全面ガラス張りの軽やかな外観が瀟洒な町並みに調和したコンテンポラリーな店舗となった。店内は3フロアから成り、地下1階にメンズドレス、2階にメンズカジュアルを展開する。
ブルックス ブラザーズといえば、かつて英国で人気を博したポロ競技から着想を得たポロカラー(ボタンダウン)シャツやポロコート、あるいはナチュラルショルダー、ダーツなしのフロント、段返り3つボタンを特徴とするナンバーワンサックスーツを初めて製品化するなど、ファッション性のみならず、実用性や合理性を考慮しながらトラッドスタイルを進化させてきたブランドだと言っていい。ブルックス ブラザーズで日本初、そして日本唯一の「ブランドアンバサダー」という肩書を持つ大平洋一さんはこう話す。
「ブルックス ブラザーズは伝統と革新を重んじるブランド。時代ごとに革新的なアイテムを誕生させてきた歴史があり、それが200年以上も事業を続けられた理由でしょう。コロナ禍で働き方が大きく変わる現代も、革新性に富んだニューノーマル・スタイルを提案していきます」
ブルックス ブラザーズ 表参道
東京都港区南青山5‐7‐1
TEL:03‐6803‐8401
リモートワークに格好のセットアップも
そんなブルックス ブラザーズが提案する「これからの仕事服」を、大平さんは次のように話す。「周りの人が見たらこれまで通りの品の良い服装だけど、着ている本人が快適なもの。一見変わらないけどノンストレス、ということがキーワードになります。見た目がきちんとしていて部屋着のように着心地が楽なものは、リモートワーク中心の方からも好評です」
そうした視点でお薦めのアイテムを大平さんにセレクトしてもらった。まず選んでくれたのが、まさにリモートワークでも重宝しそうなセットアップだ。
「こちらはナイロンとポリウレタンの混紡生地で、上下左右に伸びる4wayストレッチが特徴。ジャケットはアンコンで体へのなじみが良く、パンツのウエスト部分には伸縮するシャーリングが施してあります。さらに家庭でも洗濯が可能です」。インナーにはシャツを合わせてタイドアップしてもいいし、これからの季節はポロシャツもお薦めだ。
続いてセレクトしてくれたのは、ビジネスの定番的なウエアであるペンシルストライプのネイビースーツ。「一見変わらないけどノンストレス、を象徴するスーツ。生地はウール100%ですがジャージー素材なので伸縮性に優れます。アンコン仕立てで、着やすく軽いのも特徴です」。
合わせて、インナーにも快適な着心地のものを選びたい。大平さんのお薦めは、伸縮性があって動きやすいニット素材のシャツ。通気性もあるため夏場にもうってつけだ。
最後のアイテムはシアサッカーのスーツ。1920年代にブルックス ブラザーズが初めてアメリカに紹介した同社のアイコニックなウエアだ。
「カノニコ社のスーパーソニックというウール100%の生地で、ナチュラルストレッチがあり、防シワ性にも優れます。先に取り上げたセットアップとスーツの間のような位置づけで、オン・オフ問わずに着られます。最近は機能性が重視されがちですけれど、ビジネススタイルの自由度が高まっている今こそ、シアサッカーのお洒落感を楽しんでほしいですね」
今回提案してくれたのはペンシルストライプやシアサッカーのスーツなど、軸足はアメリカントラッドそのもの。しかしながらひとたび羽織ってみればその違いは明々白々、誰もがその心地よさを享受できるはずだ。変えてはならないものを知り、変えるべきものを知るものづくりこそが、老舗が老舗たり得るゆえんだろう。
text:d・e・w
photograph:Hisai Kobayashi