作家の吉村喜彦さんによる、酒にまつわる逸話やおいしい飲み方を紹介する連載「in vino veritas(イン・ヴィーノ・ヴェリタス)」。直訳すれば「酒に真実あり」となります。これまで多くの取材や旅を通じて感じた酒の魅力を語ってもらいます。第2回目は、フランス生まれの不思議なリキュール、ぺルノについての話。

「なんじゃ、こりゃ!」

それが、ペルノをはじめて飲んだときの、偽らざる印象である。歯磨き粉をそのまま飲んだような味だと思ったのだ。

しかし、悪しきイメージが一変したのは、インド洋に浮かぶモルディブ諸島に行ったときのこと。
島にやってきたフランス人とスペイン人の船員と仲良くなり、ランチの前に一杯飲もうということになった。その際、彼らが「じゃ、ペルノ。水割りで」と当たり前のようにオーダーし、つい釣られて飲んだ。

すると、南の島の強烈な日射しと潮風の下、ヤシの木陰で飲むペルノは、驚くほど爽やかで、目の覚めるような味わいがしたのだ。

それが、ぼくの「ペルノ開眼」のときだった。

ペルノはフランス生まれのリキュールで独特の香りは、アニスの風味に由来している。

ストレートでは透きとおった黄緑色の液体だが、水を加えると、あら不思議、黄色がかったやわらかいミルク色に変わる。

まるで、おとなのミルクである。

しかし、ペルノにはちょっとした影の気配があって、そこに、また、言いしれぬ魅力がある。

強いミントのような香りに、独特の苦味がクセになる

19世紀。ボードレールやヴェルレーヌ、ロートレックやゴッホなどの芸術家に愛されたアブサンというリキュールがあった。ニガヨモギやアニスなどからつくられる薬草リキュールだったが、ニガヨモギの成分比によっては中毒性があるため製造が禁じられた魔酒である。(近年、製造解禁)

ペルノは、そんなアブサンに風味を似せてつくられたリキュールで、アブサンの代替品ともいうべき存在だったのだ。(もちろんペルノには中毒性はない)

ペルノの美味しい飲み方は、やはり水割り。比率は、水とペルノが5:1。ソーダで割ると、より爽快になる。お好みでレモンやライムをしぼって、夏の午後や夕暮れどきに、ぜひ、一杯。

「おとなのミルク」には「影」があるのだ。

text : Nobuhiko Yoshimura

photograph : Katsuyoshi Motono

location : TENZO