作家の吉村喜彦さんによる、酒にまつわる逸話やおいしい飲み方を紹介する連載「in vino veritas(イン・ヴィーノ・ヴェリタス)」。直訳すれば「酒に真実あり」となります。これまで多くの取材や旅を通じて感じた酒の魅力を語ってもらいます。第4回目は、カリブ海の酒・ラムの話。
ラム酒の名前をはじめて知ったのは、子どもの頃に読んだスティーブンソンの『宝島』だったろうか。お菓子に使われるお酒として知ったときだったろうか。
幼心にも、なにか甘くておいしそうな飲みものにちがいないと思ったことを覚えている。
長じて、ラム酒と親しく接するうち、あらためて思うのは、このお酒の魅力は、バラエティに富んでいることなんだと思う。
琥珀色をたたえた重い風味のダークラム。透明ですっきり軽いホワイトラム。その中間のゴールドラムは淡い黄金色に輝いている。
ラムを飲んでいると、目の前に海が開け、潮風に乗ってふわっと身軽になるような気がしてくる。
色も味もこんなに違うのに、それをひとくくりに「ラム」といってしまう大らかさ・自由さもいい。
いま、ラム酒専門バーが増えているのも、南の風が吹きぬける、ほっこりした優しさを、みんな、心のどこかで求めいているからかもしれない。
ラム酒はカリブ海・西インド諸島で生まれた。
イギリスやスペイン、フランスなどが植民地支配をしていた地域なので、同じラムでも、イギリスが宗主国だったジャマイカなどではRUM、スペインが宗主国だったキューバなどではRON、フランス海外県のマルティニークでは、RHUMと呼ばれる。
イギリス系の場合はどこかスコッチに似ているし、フランス系の場合はコニャックを思わせる。そんなところもラムの面白さだ。
さて。生産量ナンバーワンのラムは、なんといってもバカルディ。
世界で初めて木炭濾過(チャコールフィルタリング)をしたラムで、ライト&スムーズな味わいが特徴。ホワイトラムは、モヒートやダイキリ、キューバ・リブレなどの人気カクテルのベースとして最高の仕事をする。
しかし、秋の夜長には、琥珀色にたゆたう「バカルディ・エイト」がお薦め。
8年熟成のダークラムで、甘やかな風味とスパイシーな後味がいい。ストレートやオンザロックで、ぜひ、ゆったりとご賞味あれ。
味わいには一切の角がなく、あくまで円い。華やかだが、恬淡としている。懐の深い「おとなの酒」だ。
海洋性の酒=ラムだからこその味わいかもしれない。
text:Nobuhiko Yoshimura
photograph:Katsuyoshi Motono
location:TENZO