作家の吉村喜彦さんによる、酒にまつわる逸話やおいしい飲み方を紹介する連載「in vino veritas(イン・ヴィーノ・ヴェリタス)」。直訳すれば「酒に真実あり」となります。これまで多くの取材や旅を通じて感じた酒の魅力を語ってもらいます。第5回目は、メキシコの魂の酒・テキーラの話。

プレミアム・テキーラが人気だ。

テキーラと言えば、気づいたら足腰たたず、翌日はひどい二日酔い──そんなイメージがあるが、それは遠い昔の話である。

なんせプレミアムなテキーラなのである。ちょっと値段は高くなるが、そのぶん、間違いなくおいしい。従来のテキーラの印象をがらりと変えてくれるはずだ。

ぼくが好きなのは、パトロンのシルバー。

冷凍庫で冷やされ、霜のおりたボトルから、背の高いショットグラスに、透明でとろりとした液体が注がれる。

と、グラスの表面におりた霜が、次第に溶けていく。

バーテンダーが、櫛(くし)切りにしたライム数個とピンク色の岩塩を盛った皿を、さっと差しだす。

左手の親指と人差し指のつけ根に、右手にもったライムを触れさせ、果汁で濡れた部分に岩塩を摘まんでちょこっと載せる。

ライムと塩の小皿がメキシコのドライな風を運んでくる

ライムの小片を口でしぼるようにして齧る。

間髪を入れず、のどの奥にテキーラをクッと流し込む。

すかさず先ほど手に載せた岩塩をぺろっと舐める。

フーッ──。

メキシコの大地に根ざした青く爽やかな香りが口いっぱいに広がり、思わず吐息が出る。

もちろん、オン・ザ・ロックもいい。

すっきり軽やかで、洗練された上品な味わい。

それがパトロン・シルバーの特徴だ。

テキーラの原料は、ブルー・アガベといわれる竜舌蘭。メキシコ・ハリスコ州のテキーラ村を中心としたエリアで生まれる。シャンパンのように原産地呼称制度によって規程されたものしかテキーラと言うことはできない。

ハリスコ州出身のミュージシャン、あのカルロス・サンタナもテキーラの蒸留所のオーナーになっているそうだ。

テキーラのチェイサーとしては、「サングリータ」がいい。

トマトジュースにオレンジジュースを少々。そこにライムをしぼり、ウスターソース、タバスコをちょこっと。テキーラの『飲むおつまみ』と言われ、口の中がよりすっきりする。

サングリータとは「小さな血」という意味だが、まさにメキシコ人の熱くクールで、ちょっとセンチメンタルな血を感じさせる。

text:Nobuhiko Yoshimura
photograph:Katsuyoshi Motono
location:TENZO