なぜセルフコーチングがいいのか
――ランニングコーチは付けていないとうかがいました。これは理由がありますか。
【山縣】フィジカルトレーニングのコーチはいます。身体への負荷のかけ方などはやはりプロフェッショナルに任せた方がいいと思うからです。
でも、走るスキルに関しては自分のフィーリングを他人に分かってもらうのは難しいと考えています。
――自分で自分をコーチするセルフコーチングのスタイルを取っているのですね。
【山縣】練習においては「何をやるか」よりも、メニューを「どうやるか」のほうが大切です。その場合、セルフコーチングのほうが適しています。たとえば60mを3本走る練習で1本目のタイムが出なかったら、2本目で修正をかけ、それでも思うようにいかなければ3本目でさらに修正する、そういう積み重ねをします。それを次につながるように必ずメモに残しています。
また、マネジャーが毎回の練習を撮影してくれています。それを見ながら、走りのどこが悪かったのかをその都度振り返るようにしています。そんな映像が合計で7000本になりました。
――メモにしても映像にしても、自分の走りと向き合う時間を大切にしています。だからずっと日本短距離界の第一人者でいられるのでしょうね。
【山縣】いえ、紆余曲折がありました。小学5年生のとき広島県1位で全国8位でしたが、小6は広島で2位、中学に入ると広島で3番や5番で全国へ行っても予選落ちを経験しました。自分が遅くなったわけではなく、周りが自分以上に速くなった結果です。そのとき思ったのが、全国で上位を目指すのは難しいけど、それと関係なく今日は昨日の自分よりも速く走ろうということでした。それを意識して練習を重ねていくうちにタイムが伸び、気が付けば順位も上がっていました。
――アスリートとしては休息の取り方も大事だと思います。山縣さん流の休み方はありますか。
【山縣】疲れを抜くためには食事と睡眠に気を付けています。良い睡眠をとるためにも色々な手段を試しながら疲れを抜くように意識しています。気分転換するには何かに没頭するのが一番です。映画を見ているとその世界に入り込み、競技から離れることができます。また魚をおろすのが好きで、そのときは「刃先をどう当てたらうまくおろせるか」と夢中になって、レースのことは忘れていますね(笑)。
――2020年の東京オリンピックまで2年を切りました。日本の短距離には実力者が揃い、かつてない厳しい代表選考が予想されます。そのライバルたちが4×100mリレーになると頼もしいチームメイトになります。相手との接し方は難しくありませんか。
【山縣】4×100mリレーで考えると、これだけ速いライバルたちがいて、一緒にチームを組めるのは幸運だと思います。集まれば仲もいい。
ただし個人種目ではライバルであることに変わりがなく、正直、相手に対する緊張感はあるし、踏み込み切れないところはあります。向こうも距離を縮められない部分はあると思うので自分はオープンマインドを意識して接するようにしています。