作家の吉村喜彦さんによる、酒にまつわる逸話やおいしい飲み方を紹介する連載「in vino veritas(イン・ヴィーノ・ヴェリタス)」。直訳すれば「酒に真実あり」となります。これまで多くの取材や旅を通じて感じた酒の魅力を語ってもらいます。第9回目は、野生の赤味肉にぴったりの、ジュヴレ・シャンベルタンの話。

11月15日から、全国的に狩猟が解禁になった。
ぼくの最新刊『酒の神さま』のなかには、東京・奥多摩の紅葉のなかで鹿やヤマドリをハンティングする男が登場する。
生きものを殺して食べることについていろいろ考えるというお話になっている。

ひとは、動物であれ植物であれ、生きものの生命(いのち)をもらわなければ生きていけない。生きものは愛おしい、しかし生きるためには、同じ生きものを殺さねばならない――そういう矛盾をはらんだアンビバレントな存在なのだ。
大切なことは「いのち」に対する敬意があるかどうか、畏れがあるかどうかだろう。
美味しさの底には、「いのち」のやり取りがあることを覚えておかねばならない。

晩秋から冬にかけて、ジビエの美味しい季節。
ジビエの美味しさは血の美味しさだ。
合わせるのは、血の色そのものの赤ワイン。
しかもブルゴーニュの赤=ジュヴレ・シャンベルタンがいい。
ナポレオンが遠征に必ず持っていったほど愛したワインということで有名だ。
ブドウ品種は、ピノ・ノワール。
味わいは、濃厚で力強く、男性的。
若いワインは渋みが強く、熟成されたおとなのワインはとても円やかだ。
酸とミネラルのバランスもよく、タンニンも豊か。
サクランボのような甘酸っぱく爽やかな香りが特徴。

お酒の骨格がしっかりしているので、赤身肉、ことにジビエとの相性が抜群にいい。
鴨や鹿肉のグリルやローストに、ぴったりなので、ぜひ、お試しあれ。「血」を味わい、おのれの「稚」を知ることは、すこしは「知」性をアップすることにつながるかもしれない。

『酒の神さま』(ハルキ文庫)

吉村喜彦さんの連作短編小説集、バー・リバーサイドの第3弾が好評発売中。東京・二子玉川にある架空のバーを舞台に、ベテランマスターの川原と若いバーテンダー琉平、そして個性的な客たちが夜毎織り成す物語。マスターが選ぶ一杯の酒が、心に刺さった小さなトゲを洗い流してくれる。

text:Nobuhiko Yoshimura
photograph:Katsuyoshi Motono
location:TENZO