ここでデュワーズが生まれる。ブレンドと樽熟成庫
2日間かけて、デュワーズの主要シングルモルト蒸溜所3カ所をまわった酒向さん。試飲を別にしても、昼夜の食事に合わせて、さらに夜はバーでデュワーズを飲み続け、「1日1本」の有言実行をまざまざと見せつけてくれた。けだし、これだけ異なる場所で、環境で、気分や体調で同じものを飲み続けているからこそ、見えてくる本質というものがあるのだろう。
さて、デュワーズの聖地巡礼の最後に訪れたのはグラスゴーのデュワーズ本社兼熟成施設兼ボトリング工場である。貯蔵庫には、まさに「宝の山」と呼ぶべき樽がぎっしりと並ぶのだが、日本と違い、横積みではなく縦積みされていることに驚く酒向さん。「なぜ?」と真っ先に質問するが、こたえは「利便性から」とのことで、品質には差が出ないという。
各蒸溜所でつくられた原酒はすべてまずここに運ばれ、樽詰めされて熟成が加えられ、ブレンドされるという。そしてそのブレンディングを決めるのが、我々を迎えてくれたデュワーズ7代目マスターブレンダーのステファニー・マクラウドさんである。
「僕の一番愛するお酒、デュワーズ ホワイト・ラベルをつくってくれて本当にありがとう」まっすぐにそう切り出した酒向さんは、マクラウドさんに自らのデュワーズ愛を語り始めた。
「僕のお店のお客さんには、『いつものね』という互いの暗黙の了解で、黙ってデュワーズ ハイボールを出しています(笑)。骨格がしっかりしているから、炭酸で割っても香り高いし、飲みごたえのある濃厚なフィニッシュがある。Perfect! そのひと言に尽きるお酒です。自分でも毎日1本、もう30年飲み続けているから、僕が世界一デュワーズ ホワイトラベルを飲んでいる男ではないでしょうか」
そう言われて、嬉しくない者はいない。工場見学の後、酒向さんを自らのブレンディングルームに招き入れたマクラウドさんは、さまざまなウイスキーをテイスティングさせながら、ダブルエイジ製法(ブレンドした後にまた樽に戻し、再度熟成させること)について説明する。
「例えば日本未発売の『デュワーズ ダブルダブル32年』というものがあるのですが、モルトとグレーンをそれぞれブレンドした後、樽に入れて熟成、それらをブレンドしてから再度数カ月熟成させるダブルエイジ製法を2回行うことで、これまでにない個性とスムーズさが生まれます。『デュワーズ25年』は、ダブルエイジ製法の後に、さらにロイヤル・ブラックラの樽でフィニッシュさせて仕上げています。ブレンドの方法によって、デュワーズの香りと味をより複雑かつ魅力的に変えるというミッションに、日々心血を注いで取り組んでいます」
興味深かったのは、酒向さんの音楽に関する質問である。日本酒の酒蔵では、発酵樽に音楽を聴かせるところがあるという話に対し、マクラウドさんはこんなエピソードを聞かせてくれた。
「うちではお酒ではなくて、私が音楽から力をもらっています。ブレンドをするときによくかけるのが、ベートーヴェンの交響曲第7番。特に第2楽章のアレグレットを聴くと、集中力が高まるし、インスピレーションを得られるんです」
さらに、ブレンディングにおいて大切にしていることについて問われると、マクラウドさんはこう言葉を続けた。
「デュワーズの伝統に敬意を払い、それを継承しながら、さらにどんな革新をもたらせるか。私は伝統のルールを守る中でこそ、冒険ができると信じています。そうしたところから生まれたダブルダブル22年、27年、32年は特にデュワーズのポテンシャルを広げ、掘り下げるものになったと自負しています。フルーティーかつクリーミーで、トッフィーやカラメルのニュアンスとスモーキーさが絶妙に引き出された味わいは、酒向さんのお得意のハイボールにしても、きっと十分に堪能いただけるものになっているのではないでしょうか」
3日間に及ぶデュワーズの視察を終えた酒向さん。最後にこんな話をしてくれた。
「3つの蒸溜所取材の後、マクラウドさんのブレンディングルームを見せていただきましたが、僕がこれまで他所で見てきたものはもっと大々的な科学実験室のような感じでした。デュワーズは、科学の応用は無論のことですが、それより何より、彼女という才能によって形づくられているのだということを知れて、興味深かったですね。他にも、蒸溜所や工場で出会った大勢の人たちにしろ、新旧織り交ぜた設備にしろ、毎日雨でしたがスコットランドの豊かな自然環境にしろ、『行ってみたらガッカリした』というような要素がこれっぽっちもありませんでした。本当に嬉しい驚きばかりで。帰国したらお客さんにひたすらこの旅で見てきたことを語りますね。デュワーズのハイボールを黙って出してからね(笑)」
デュワーズハイボールを飲むなら、銀座 酒向Barへ
問い合わせ情報
酒向Bar
東京都中央区銀座8‐5‐1 プラザG8 4階
TEL:03‐6280‐6835
text:Shigekazu Ohno(lefthands)
photograph:Haruko Tomioka(Scotland)、Tadashi Aizawa(Tokyo)