――ご自身はふだんオーソドックスなスーツ姿が多いそうですね。大塚さんはアメリカでも仕事をしていましたから、あちらの影響もうけていますか。
ニューヨークやボストンなど、アメリカの東海岸にはスーツ文化が根付いています。あちらのビジネスマンは体格も姿勢もよいからスーツ姿が似合うんですよ。彼らほどうまくスーツを着こなせるわけではありませんが、少しでも近づけるようにと考えていました。
――どうしても日本人は体格的に不利ですからね。社員も通常はスーツ姿でしょうか。
社員もスーツ姿の人が多いですね。ただし夏場はビジネスカジュアルを採用しています。社員の中にはかなりお洒落なビジネスカジュアルで勤務している人もいますよ。私の場合は、いつものスーツ姿から単にネクタイを外すくらいですが。シャツの柄で少しばかりアクセントをつけるのがせめてもの工夫ですね。
――講演やプレゼンではファッションだけでなく、表情や姿勢などを大切にされるとか。これも米国仕込みですか。
やはり彼らはプレゼンが上手いなと思います。アイコンタクト、歯切れのよい話し方、抑揚のつけ方、ポイントの協調の仕方など、学ぶところはたくさんあります。
大学の講義であれば話の中身が大事ですが、私たちの講演やプレゼンの場合、伝えたいことを絞り込んで、しっかりとメッセージを届けることが重要です。聴衆の中には話の内容にそれほど興味のない人がいるかもしれません。そういう人も飽きさせないように、声のトーンを変えたり、ステージ上を動き回ったりするのも一つの工夫だと思います。ただし日本人なので嫌味のない程度での動きですが(笑)。
――相手に確実にメッセージを届ける重要性は社内でも同じです。
社内でもメッセージを絞り込むことを大切にしています。当社は2月から新年度が始まり、その際に私がメッセージを発信したときもシンプルさを心がけました。昨年度の業績に対しては社員の努力とチームワークに感謝し、新年度の事業に関しては将来展望を示し、それに至るステップをロジカルに説明しました。そして各自、仕事にチャレンジし、楽しんでいこうと語りかけました。
――日本法人はオープンコミュニケーションで意思疎通もよさそうです。DellEMCはグローバルで14万5000人の社員を抱え、歴史的にM&Aも多かったため出身母体が多様です。本社のメッセージは浸透が難しくありませんか。
グローバルでもコミュニケーションをとても重視しています。米国本社のトップからのメッセージが年4回、その下の部門長クラスからのメッセージも年4回、グローバルに発信されています。それに加えて年に何回かは幹部が集まって、フェイスツーフェイスで話し合っています。オープンコミュニケーションの文化は日本だけでなく、グローバルなDellEMCの文化でもあるのです。
――コミュニケーション重視は大塚さんも米国本社の幹部も変わらないのですね。でも、あまりにオープン過ぎて大塚さんが1人で考える時間がなさそうです。
正直、自分の時間は移動時間だけです。あとは社員やお取引先とのやり取りで1日が終わります。
でも、オフィスにいるときは社員とのコミュニケーションのほうが大事です。私が経営の計画や戦略を立てるといっても、自分1人でゼロからできるわけではありません。常に現場の課題やお客様のニーズに触れている社員からの情報が、重要なインプットになっているのです。だから会って話して、食事して話して、飲んで話してと、できる限りコミュニケーションをとっているのです。
密なコミュニケーションがあるおかげで、みんなが同じ方向を見ることもできるし、どこにどんな人材がいるといった情報も得られます。それが経営の判断と行動の速度につながっていきます。これは当社が大事にしたいカルチャーですね。
大塚俊彦/Toshihiko Otsuka
EMCジャパン代表取締役社長
1962年生まれ。早稲田大学理工学部卒業後、日本IBMに入社。米国本社勤務等を経て、2005年に執行役員に就任。その後、日本オラクル副社長執行役員を経て、14年12月より現職。
text:Top Communication
photograph:Tadashi Aizawa
make & hair:RINO