最高のPRは当行の評判を上げること

――銀行の頭取らしく、スーツは清潔感と安定感を大事にしています。それ以外で気を付けているところはありますか。

安定感は必要とはいえ、あまり堅苦しく見えないように、メガネは柔らかな印象になるハーフリムのタイプを選んでいます。愛用ブランドは福井県鯖江市で作られている「999.9(フォーナインズ)」です。掛け心地が抜群で長時間使っていても疲れません。シンプルで洗練されたデザインもいいですね。

――ソフトな印象を演出できるメガネも重要なファッションアイテムです。今はすっかり銀行員のファッションに馴染んでいますが、大学を卒業してすぐに銀行に入ったわけではないそうですね。

大学生の頃はジャーナリスト志望で、就職先に銀行はありえないと思っていました(笑)。しかし新聞社に受からなくて、最初は貿易会社に勤めました。規模は小さいながらも神戸製鋼所と組んで中東のカタールに製鉄所を建設したり、世界規模の資源会社である豪州BHPビリトン社の石炭輸入の権利を得たりとダイナミックな事業を展開していました。若手にも大きな仕事を任せてくれるところで、私は中国向けの機械輸出を担当しました。

25歳のときには中国広州市の事務所の駐在所長となりました。ふつうは入社3年目の若造が任されるポストではなかったのですが、できるだけ早く中国に駐在したかったので語学学校へ自費で通い、会社に朝早く行っては専務に中国語を熱心に学んでいる姿を見せてアピールしました(笑)。

――銀行員になるのはその後ですか。

英国でサッチャー政権の下、金融ビッグバンが始まり、これからは金融界が面白いと思いました。ちょうど会社の先輩に三井銀行(現三井住友銀行)へ転職した人がいて意識はしていたのですが、外出中に電話ボックスに入ったら、たまたまそこに転職情報誌が置いてあって、三井銀行が人を募集していました。募集期限は過ぎていたのですが電話をしてみると、採用の面接を受けさせてもらえることになったのです。

――不思議な縁ですね。大和証券SMBCでは執行役員に就きました。そのお祝いにモンブランのボールペンを贈ってくれた先輩が、東京スター銀行に移るきっかけを与えてくれたのですね。

台湾出身の先輩で、大和証券SMBCで生え抜きの外国人として初めて役員になった人です。すでに台湾に帰っていたその方から電話があり、東京スター銀行を買収した台湾の民間最大手CTBC銀行が次期頭取を探している、興味はないかと聞かれました。CTBC銀行は人材のレベルが高く、CTBC銀行の会長からは「台湾は、戦前は日本の、戦後は米国の影響を受けていて、企業カルチャーは日本の情と米国の合理主義の真ん中なんだ」と聞かされ、面白い存在だと興味を持ちました。

――今、銀行として力を入れているのが、お客様の役に立って評判を上げることだそうですね。これは佐藤頭取の信条とも連動していますか。

まったくギャップがないですね。私の信じていることを銀行で実現しようとしているので、ストレスも感じません。前編でも語ったとおり、人の役に立つことには、自らの限界はありませんからね。

銀行はバブルの頃、自分たちが主人公であると勘違いしていたところがありました。言い方は悪いのですが、お客様を利用して金儲けをするようなこともあったと思います。現在、私は銀行業を「サポーティング・インダストリー」と定義しています。予算が達成できなければ、まだ役立ちの量も工夫も足りないからだと考えます。

――記事の前編で「働く目的が社内で共有されると組織として、すごい力が発揮できる」とおっしゃいました。共有化のためにどんな活動をしていますか。

各支店や部単位で十数名のスモール・ミーティングを重ねてきました。累計で100回を超えたでしょうか。みんなに仕事の目的を問いかけながら、経営理念の共有化を図ってきました。

――銀行業も人口減少の影響を受けたり、超低金利だったりで、銀行間の競争が激しく収益が上がりにくい産業になっているように思います。戦略はどう考えていますか。

なぜ、シニアの資産運用のようなレッドオーシャンばかりを狙い、もっとブルーオーシャンに目を向けないのかと思います。「貯蓄から投資へ」と言われてすでに30年です。それでも資産に占める投資信託の割合はたったの3.8%にすぎません。個人資産の3分の2を持つシニア層は、この先リスクを負ってまで殖やす必要がないからです。シニアで資産運用したい人は少数派です。

私たちは現役世代の資産形成を真剣にサポートしていこうと考えています。若い人たちも未来に対して大きな不安を抱いています。この分野は手間も時間もかかりすぐに儲からず、金融機関はあまり手を付けませんが粘り強く取り組んでいきます。また、法人部門では5~6年前からインバウンドの波を受け、活況を呈するホテル業に対して積極的に融資し、業界をリードしてきました。

お客様の立場になれば新しいニーズが見えてきます。その中から私たちが何をやるかを見極め、私たちしかやれないことを手掛けていきたいと考えているのです。

佐藤誠治/Seiji Sato
東京スター銀行頭取CEO
1982年早稲田大学政治経済学部卒業後、東京貿易(現東京貿易ホールディングス)入社。89年三井銀行(現三井住友銀行)入行。バンコック支店長などを経て2013年常務執行役員。15年三井倉庫ホールディングス取締役。16年東京スター銀行副頭取。17年より現職。

text:Top Communication
photograph:Tadashi Aizawa
make & hair:RINO