――ビジネスマンが一番オシャレを演出できるのはシャツ、が持論ですね。
オシャレだけでなく機能を足すこともできます。シャツのポケットに携帯を入れていて落としてなくすこともあったので、シャツの内側にポケットを付けてもらいました。シャツの加工ではありませんが、私はポケットチーフに両面テープを付ける工夫をしています。よく上着を脱ぐのでそのときの落下防止とチーフの幅を一定に保つためです。
――齋藤会長のファッションには遊び心にプラスして手作り感があって面白みがあります。ところでビジネスファッションの本丸、スーツへのこだわりはどうでしょうか。
スーツは見る人が見ないとよいスーツかどうか分かりませんし、オシャレにそれほど幅がありません。わたしがふだん着ているゼニアやランバン、ダンヒルといったブランドのスーツはシャツのようにオーダーではなく、すべて既製品で間に合わせています。オシャレといっても、きょう着用しているゼニアのスーツのように隠し気味に柄を入れるくらいなものでしょうか。
――ゲーム業界はラフな格好で働くのが標準になっていますから、やはり上着を脱いだときのオシャレや遊びが重要かもしれません。遊びといえば、齋藤会長の趣味は実に多様ですね。
遊びは広く深く、がモットーです。もちろん自分の好奇心もありますが、ビジネスにも役立ちます。昔ならビジネスの付き合いはゴルフと麻雀、お酒でよかったでしょう。今はみなさんいろんな趣味をお持ちです。音楽に絵画、ワインに食、釣りなど、満遍なくかじっておけばどのお客様とも話が合います。
なかでもよい関係をつくれるのが釣りです。クルーザーでトローリングを楽しむために1級小型船舶操縦士免許を取りました。クルーザーの上でお客様と2~3泊ご一緒しますから、距離はぐっと縮まります。人間関係ができれば情報も他人より先にもらえ、ビジネスにもプラスになります。
――同じ釜の飯を食うではないですけど、飲食を共にすることも人の距離を縮めます。齋藤会長はワイン好きでも知られます。
ワインは「シン・クア・ノン」をコレクションしています。米カリフォルニア州サンタバーバラ近郊の小さなワイナリーで、エチケット(ラベル)にはアート性があって毎年変わり、ぶどうのブレンドやワイン名も毎回異なります。同じ年の同じワイン名でもエチケットが3種類あって、全部買わざるを得なかったこともあります(笑)。著名なワイン評論家、ロバート・パーカーさんが最も多く100点満点を付けているワインです。
2005年まではやはり毎年エチケットが変わる仏ボルドーの「シャトー・ムートン」を集めていました。でも高騰しすぎましたし、ボルドーやブルゴーニュにはマニアがたくさんいます。食事会でシン・クア・ノンを出すとみなさんの興味を惹くことができます。
――今では齋藤会長の代名詞にもなっているワインです。飲食では、齋藤会長が企画し、3年間だけ開いていた美食のレストラン「空」も話題になりました。
無償で一流のシェフたちに交代で料理を作ってもらいました。メニューはシェフ次第で、テーブルに座るまで何が出るか分かりません。和食の板前がバスク料理を、中華の料理人がフレンチを、フレンチのシェフがベトナム料理を作ることもありました。ただ、腕のよいシェフは何料理を作っても美味しいと分かりました。店を運営する私たちもボランティアです。サントリーさんにはお願いして「空」のためにウィスキーを作ってもらいました。こういうのを企画するのが好きなんですよ。
遊び心で始めたのですが、結果としてビジネスに結びつくこともあります。ふだんのお付き合いの中ではお会いできない政財界のトップや作家の方たちが「空」に興味を持って、わざわざ京都まで足を運んでくれましたから。
――これもまた強力なトップ営業です。営業で回るのは東京のメーカーが中心だと思いますが、京都に本社を置く意味はありますか。
たしかにお客様の99%近くが東京です。私も東京と京都にいる比率は4割と6割くらい。でもずっと東京にいたら忙しすぎて企画も書けないでしょう。東京と京都のこの距離感がいいんですね。ただし、京都は人間関係が密ですから、事業に失敗して仲間に迷惑をかけるようなことはできません。経営するうえで緊張感はあります。
――そもそもゲーム自体が企画次第ですからね。企画力を鍛える方法はありますか。
私は、家庭用ゲーム機の創成期から企画を書いて玩具メーカーやパソコンメーカーに売り込んできました。誰かから企画の作り方を習ったわけではありません。すべて自己流ですが、思うのは、企画を書く上で一番大事なのは好奇心だということです。
たとえば常に新商品に興味を持つ。私はトレンド雑誌を読み、面白い新商品があれば買って使ってみます。スマートフォンも3カ月に一度買い替えていて、最近話題になっているファーウェイも購入しました。中国メーカーの実力を知りたかったからです。電池の持ちがすごくよくて驚きました。新商品にときめきを感じているうちは一線で活躍できると思っています。
――どんなにゲームが好きな人でも40歳を過ぎると興味がなくなると聞くこともあります。ときめかなくなったのでしょうか。
誰でもずっと同じ趣味を持ち続けることはないと思います。私もしばらくマンガやゲームに没頭していませんでした。しかし最近は、「キングダム」にハマっています。だから一度、ときめきがなくなったように感じても再び新商品に興味を覚えることはあるのではないでしょうか。そういっても私もやめてしまった趣味もありますが。
長く続けられそうなのはワインと釣りです。ワインは80歳まで、釣りは死ぬまでいけそうです。最後はクルーザーから漁船に乗り換えて楽しみたいと思っています。
齋藤茂/Shigeru Saito
トーセ代表取締役会長 兼CEO
1957年1月生まれ。京都府出身。立命館大学理工学部電気工学科卒業。2015年より現職。また、京都を中心とした経済・文化振興団体の理事や委員、裏千家今日庵老分や京都ブランド推進連絡協議会会長などの公職も兼任している。
text:Top Communication
photograph:Kunihiro Fukumori
hair & make:Aya Kajio