――ミルボンの社員が何をやるべきかを示した「THE MILBON WAY」は昔からあったのでしょうか。
私が前社長から経営を引き継いだのが12年前で、そのとき社員は450人でした。今は約1000人です。社員の数が増えるにしたがって創業者の思いや信念が伝わらなくなっていると感じていました。
思いや信念は暗黙知的なところがあり、活字にしないと伝わらない面もあります。そこで「THE MILBON WAY」をつくったのです。2010年に着手し、初版ができたのが12年です。
最初、制作会社に依頼したときサンプルで出てきたのが分厚い冊子でした。これでは誰も読みません。1枚を開くとミルボンイズムや経営理念、ビジネスモデルや人材像、ビジョン、大義までがすべて分かり、全社員がポケットに入れて常に持ち歩けるようにしました。経営理念やビジョンは時代や組織の変化によって変わりますからその都度刷新しています。
――1年間に国内外の400人ものサロンオーナーとお会いしています。相手はどう選んでいるのですか。
直接サロンへ出向くほか、一緒に会食する場合もあります。たいていは国内外の拠点で働くフィールドパーソン(教育営業員)がサロンオーナーを選んで、私はついていく形です。ただリクエストとして、付き合いが長くて売上の大きなサロンさんだけでなく、新しいサロンの若手オーナーさんも訪問先として混ぜてほしいと頼んでいます。
若手オーナーさんの感覚を知りたいし、やはり話すと刺激を受けます。たとえば、一概には言えませんが、かつてのオーナーさんは徒弟制度の中でスタッフを育てるのがふつうでした。今の若手オーナーさんはスタッフを社員として扱う意識が強いですね。
――サロンのオーナーたちとどんな話をするのですか。
サロンの悩みや困りごと、課題など今ぶつかっていることをお聞きすることもあれば、長期ビジョンをお聞きすることもあります。もちろん課題や問題を解決するのはオーナーさん自身で、私たちがこうするのがベストなどとは言えません。組織の風土も土台も違いますから。私たちにできるのはアドバイスや提案で、オーナーさんにとってその中に得るものがあればいいのです。
――安定したサロン経営のために、時流に合わせた提案をいち早くすることもミルボンの役割ですね。フィールドパーソンの力が試されます。
当社は独自の研修制度も充実しています。たとえば新入社員は最初の9カ月間が研修に当てられます。6カ月間は研修センターで美容技術に始まり、サロンの課題解決のスキルやマーケティング、基礎的な経営などまでを学び、3カ月間は現場に出てOJTで実際の営業を経験します。もちろんそれだけで一人前にはなれません。3~5年現場で経験を積むうちにサロンオーナーの悩みや困りごとにこたえていけるようになるのです。
分かりやすい例ですと、以前のサロンはカットの次にパーマに力を入れていました。そのときは私たちもスタイリング剤の提案が多かったのです。それが2000年以降はパーマに代わってヘアカラーが主体となり、私たちも美しい髪色を出す素材など、ヘアケアによりつながる提案をするようになりました。
――今年からはコーセーと共同開発の化粧品ブランドでサロン向けスキンケア・メイクアップ化粧品という新天地を目指します。いつからお考えだったのでしょうか。
サロン専用の化粧品への進出は02年から考えていました。サロンではスキンケアの機能性はもちろん、お顔の印象をつくりあげ、髪の形や色、質感まで含めたトータルで美しさを演出することが求められます。そこに私たちが進出する意味があります。
ただし単独で進出しても競争力がなければ撤退せざるを得ません。14年からパートナー探しを始めました。女性にとって肌は髪の毛以上にセンシティブです。最終的にスキンケアに強いコーセーさんと組むことにしました。
経営者同士、馬が合ったという面もあります。しかし実際に仕事をするのはトップ同士ではなく現場の人たちです。お互いの価値観を認め合えるような組織風土がなければ提携はうまくいきません。その点で両社には共通する組織文化がありました。
――化粧品への進出と共に、最近はグローバル展開にも積極的です。世界では強力なライバルが待ち受けています。勝てますか。
いずれ世界で一番、サロンさんから支持されるメーカーになれると思っています。実は国内でもすでに世界の強豪が入り込み、しのぎを削る中、私たちは下位からナンバーワンまで登り詰めました。日本の消費者の選択眼は非常に厳しいと言われていますので、国内での実績は自信になります。
アジア圏はとくにビジネスの価値観も日本と近いですから手ごたえを感じています。ビジネスの価値観の違う欧米は時間をかけて攻略していこうと思っています。
――海外の攻略には現地社員の力が欠かせません。
韓国拠点は社員約40人が全員韓国人ですし、中国拠点も日本人は2人だけで残る30人ほどは中国人です。現地社員は「THE MILBON WAY」の勉強会をよく開いていて、ひょっとすると日本人以上に学んでいるかもしれません(笑)
いつ世界一になるのかと聞かれることもあります。こればかりは“支持率”という相手が決めることですから、「いつ」とは言えません。それに世界一は手段であって、私たちの目的はつぶれない会社を築く、成長し続ける会社をつくるといったところにあります。
ミルボンから多くのリーダーが生まれてくるようになれば、そういう会社が実現すると思っています。
佐藤龍二/Ryuji Sato
ミルボン代表取締役社長
1981年ミルボン入社。関東エリアでの営業を担当後、93年にマーケティング部へ異動。08年に代表取締役社長へ就任。10年に新たなグローバルビジョンを掲げ、本格的な世界展開を開始。17年には株式会社コーセーとの合弁会社を設立し、美容室専用の化粧品事業に着手。
text:Top Communication
photo:Tadashi Aizawa
hair & make:RINO